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寒空5題 (お題配布元:Discolo様)
枯れ葉舞う午後 / 白い息が空に溶けた / ポケットの中で繋いだ手 / 鍋日和 / 空からの白い贈り物
なんとなく時間軸順になってますが、単発でも読めます。


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枯れ葉舞う午後


 珍しく昼で仕事が終わった。
 かといって、家に帰ってもやることもなく、一応まわりにお伺いを立てたが、特に手伝わなければならないような案件もないらしい。
 おとなしく待機所を出るが、空腹を覚えて、繁華街へ足を向ける。
 定食屋にでも行こう。ほっけ食いたいなぁ…なんて考えながら、アカデミーの塀伝いに歩いていると、はらり、と舞い落ちてくる枯葉。
 冬は物悲しい。
 見上げれば、夏には青々とした木々は見る影もなく。
 なんだかさみしいねぇ、なんて珍しく情緒のあるせりふをこぼしつつ、ふと視線を建物に移せば、見知った薄紅色の髪。
 ああそういえば、図書館のある棟だったっけ。
 気付くかなー、と気配を現してみたが気付くはずもなく。
 熱心になにか書物を読んでいるのか、余所見をするような様子は見られない。
 気付かれたところで、向こうは図書館なのだし、大声を出すわけにもいかない。
 それでもなんとなく、顔が見たいと思ってしまった。
「あんまりがんばりすぎるなよなー…」
 なんとなく、口にしてしまった。
 誇らしい反面、心配でもある。これは親心。
 考えてみれば、はじめて受け持った第7班の面々は、脇目も振らない奴らばかりだ。
 苦笑いがこぼれる。
 ひとりは里を抜け、ひとりは修行の旅、残るはひとり。
 そういえば最近は顔をあわせることもなかった。どうしているだろうか。火影から聞く限り、がんばってはいるようだが。
 無理しすぎるところは、心配だ。
 ぴゅるり、と吹きすさぶ風に目を細める。そこでようやく空腹を思い出す。
 今度、夕飯でも誘ってみようか。たぶんものすごく目を見開いて驚かれると思うけど。
 最近どうしてんの、なんて。へたな誘い文句で。


(20131231/このあと、「先生と生徒」に続きそう)



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白い息が空に溶けた


 はぁぁぁぁぁぁ


 わざとらしく、息を吐く。白くなるのがおもしろくて。
 すっかりと冬だ。

 寒いのに、上忍待機所から一番近い出口で、立っている。
 待ち合わせです、なんて顔して。でも本当は待ち合わせではない。
 待ち伏せだ。

 頬がひんやりしているのが、触れずともわかる。
 寒いのは大嫌いなのに。なぜだか、つらくない。

「あれー? サクラー」

 のんびりとした声が聞こえてきただけで、心臓が跳ね上がり、身体のなかから暖かくなるから。

「どうしたのこんなとこで、寒かったろ」
「ううんー、今きたとこ」

 わかりやすい嘘。間違いなく見抜かれていると思うけれど、それでも嘘をつく。
 困ったように笑う顔。

「待ってたの? 俺のこと」

 なんでそう思うんだろう。そうなんだけど。
 にっこり、笑うだけで応える。
 するとやっぱり困った顔をしながら、頭を撫でられる。12歳の頃のように。

「迷惑?」

 困った顔してるから。
 本当はちょっと困らせたいとも思ってるけど。
 困って困って、わたしのことばかり考えてればいい。なんて。

 先生は、違うよって言ってくれる。間違いなく。
 でも、後に続く言葉は、想像とは違って。

「違うよ。サクラが風邪ひいたら大変だろ?」

 思わず言葉に見上げると、困った顔はすっかりと引っ込んでいた。
 変わりに。

「ここじゃなくて、中で待ってなさい。俺が、迎えに行くから」

 少しはにかんだように見えたのは、気のせいだろうか。


(20131231)



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ポケットの中で繋いだ手


「寒いねー先生!」
「ううー」

 木枯らしに肩をすくめる。たいした効果はないだろうに。少しでも表面積を減らしたいという本能だろうか。
 手と手をこすりあわせて息を吐くサクラを見ながら、先日一緒に帰ったときに、新しく買った手袋気に入ってるのー、なんて見せてくれたことを思い出す。

「あれ、サクラ、今日手袋してないの?」
「あー、うん。実はどこかで片方なくしちゃって…」

 だからかっこわるいから我慢するの!
 女の子は防寒よりおしゃれらしい。寒いのも嫌なくせに。難しいね。

「もう片方はいま持ってるの?」
「え、あるけど…」
「じゃそれはめて」

 えー、でもー、とごねるサクラに、いいからはめなさーいと続ければしぶしぶかばんから取り出す。
 落ち着いた赤色の手袋は、確かにサクラらしくてかわいらしいと思った。

「大事な手なんだから、ね」

 宙ぶらりんになった左手を、いいわけめいた言葉をつぶやきながらさらう。
 冷たい手。お互いに。

「…先生、」

 なぜだか、サクラの顔を見れないでいた。反応が怖くて。
 年甲斐もなく、女の子の手を握ったりして、どきどきしている。

「冷やしちゃだめだよ」

 そのまま自分のポケットに招き入れると、ぎゅっと握り返されたのは気のせいではないと思う。


(20131231)



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鍋日和


 寒いねー鍋食べたいねー

 きっかけはそんな他愛のない世間話だった。
 それからするすると鍋やろっか?うちで。来る?なんて。そんな軽いノリであれよあれよという間に、鍋パーティ開催に至ってしまった。


 ぴーんぽーん

 暢気なチャイムが、緊張をあおる。
 …そもそも、なぜ自分は、これほどの緊張感を背負っているのか。
 鍋を、食べにきただけなのに。

「やーいらっしゃーい」

 にこにこしながら扉を開けてきたこの上忍はもちろん、知る由もない。
 こちらの胸中など。知られても困るのだが。


「おじゃましまー…す」

 どうぞどうぞと招きいれられ、一歩踏み入れる。
 男の人の部屋。余計なものがほとんどない、カカシの部屋。

 思えば、「男性の」部屋に上がるなど、はじめてのことではないか?
 どきん、と鼓動が一鳴りする。意識、してはだめだ。と思えば思うほど、変に意識してしまう。
 
「サクラー、手伝ってー」

 もちろんこちらの緊張など察するわけもないカカシが、こっちこっちと流し台で手招いている。
 部屋の観察もそこそこに、それに従う。

「本当はサクラが来る前に全部用意しとくつもりだったんだけどー、ごめんねー」

 ううん、と首を振りながら手を洗い、切っている途中だったらしい白菜を刻んでいく。
 すれ違いにカカシはカセットコンロを取り出し、こたつへ運び出す。
 次に吊戸棚から取り出したのは、土鍋。

 こたつにコンロに土鍋。こんなものがすべて揃っていたとは驚きだ。さすがおいでよなんて誘うだけのことはある。

「先生、鍋パーティよくするんだ」
「え、したことないよ」

 あまりにもあっさり言われ、え、と拍子抜けする。
 明らかに1人分としては使わないサイズの土鍋だというのに。

「揃えたんじゃないーサクラが来るからと思って!じゃなきゃひとりで鍋なんて、食べないよ」
「わ、ざわざ?」
「んー、だって鍋食べたいなーって思ったからねえ」

 であれば、どこかの居酒屋でもどこでもよかっただろうに。
 どういう意図だったのか。鍋もないのに、わざわざ買い揃えてまで自宅に呼ぶなんて。というか、自分たちの関係ってそもそもなんなのか。
 いろいろと気になることはあったけれど、差し引いてもカカシの好意が嬉しくて、口にはしなかった。

「カカシ先生、できたわよー」
「よーし、じゃあそれこっち持ってきてはじめ…」

 威勢のいい口調は途切れ、かわりに「あ」という情けない言葉が続いた。

「…鍋の素、買うの忘れた」

 がっくり、という音が聞こえてきそうなくらい、わかりやすく肩を落とした。
 変な緊張が、一気に解けた。こぼれ出した笑い声は、しばらく止まらなかった。


(20131231/ポン酢もないから水炊きもできないんだよ!!)



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空からの白い贈り物


 並んで歩く帰り道。
 ふと、頬に冷たい感触。
「わー…雪だねぇ」
「ほんとだー。どうりで冷え込むと思ったのよー」
 うー寒い、とサクラが大げさに肩を震わせる。
 雪と思うと、余計に寒さを実感してしまう。
「サクラ」
 ん、と手を差し出す。
 一瞬だけ怪訝な顔をされたが、それでもしっかりと握られる。
「先生、」
 ぎゅう、とこちらもしっかりと握り返すと、翡翠の瞳がこちらを見つめている。
「どういう意味、って、聞いてもいい?」
 手をつなぎたかったから。
 ひどくシンプルな理由。
 でもそれを告げるのはためらわれて。
「んー…、寒いし、」
「それだけ?」
「あと…、サクラが雪道ですべると危ないし」
「…あとは?」
 子供じみた言い訳も、続かなかった。
 本当は、サクラの手を握り締めたときの、ぬくもりが忘れられなくて。
「素直じゃないのね」
 すべて見透かしていて、それでも聞いてくるこの小悪魔。
 くすりと笑いかけてくる様は、これまで一度も見たことのないサクラの新しい表情。
「雪のせい、ってことでいいわ。今日のところは」
 はらりはらりと、薄紅色の髪に舞い降りる、雪。
 寒いのは嫌だけど、こんな言い訳ができるのなら、悪くないかもと思ってしまった。


(20131231)



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