※9月末発売の本誌内容に絡めた妄想です。内容はまったく関係ありませんが、これから先を読むにあたり変なイメージをつけたくない…と懸念される方は、ご遠慮ください。
薄く覚醒しはじめる意識。まだぼんやりとしたままの脳が、直前に囚われたイメージを鮮明に拾い上げて、たまらず心臓がきゅうと音を鳴らす。
真っ暗闇に取り残されているような感覚に陥り、あっという間に不安が心いっぱい支配していく。
こらえきれず、からだじゅうに力が入ってしまう。そこで、自分がかたく目を閉じていたことにようやく気付き、ゆっくりと力を抜いてまぶたを上げる。
ぼんやりとした頭で感じるのは、いや、はっきりと感じないとわかってしまう、あのふたりの気配。
ああ、また置いていかれたのだな。悔しさと諦めが入り混じった感情が渦巻いたところから、ようやく晴れていく視界で捉えたのは、不安げに遠くを見つめる表情。
「カカシ先生…」
思うように声が出せず、なんとか搾り出した呼びかけに、少し驚いたように目を見開き、彼がこちらを振り返る。
「サクラ…、目が覚めたか」
うん、となんとか頷いてみせる。おそるおそる確かめるように、心臓のあたりまで重たい腕を動かす。
どうやらあれば、幻だったらしい。
「ごめんな、倒れる前に受け止めてやれなかった。痛むか」
体なんてちっとも痛くない。痛むのは。
ううん、と首を振るれば、そうか、と微笑んだ顔は、やはりつらそうだった。
(…そんな顔しないでよ)
泣きたいのはコッチよ。
どんなに、どんなにどんなに、どんなにどんなにどんなに追いかけても追いすがっても、たったいっとき横に並べたとしても、あっという間にまた振り払われ、置いてけぼりを食らって。そのくりかえし。
冷たい瞳に射抜かれたことを思い出し、また心臓が痛む。
カカシ先生に視線を戻せば、いつのまにか先ほどと同じ方向を見つめていた。
また、だめだった。
そんな心の声が聞こえてきそうだった。
痛いほど、わかってしまう。
きっといまのわたしたちは、同じ苦しみを共有しているし、誰よりもお互いの気持ちを分かり合っている。
誰でも悲しげな顔しているところを見るのは胸が痛むものだけれど、わたしはなぜだか、この人の不安や苦しみを感じるのがいっとうつらかった。昔からそうだ。いつでもわたしたちに希望を与えてくれながら、彼自身のなかであらゆることを諦めているのを、垣間見ていた。
先生なんだから、しっかりしてよね!と言えば、きっとまただらしない先生ですまない、なんて言うのだろう。
謝ってなんてほしくなかった。もうこれ以上、責めないで欲しいし、誰かのために自分を諦めないで欲しい。
そうは言っても、そうしてしまうカカシ先生だから、きっとわたしはますますそう思ってしまうのだ。
わたしはわがままで弱いから、泣いて縋りたい気持ちもあった。そしてこの人なら受け止めてもくれるだろう。
そうやってふたりで分かち合えたらいいのに、そうしてしまえば彼は、またわたしのぶんの罪悪感まで背負ってしまうのだ。
いつでも背中でわたしたちを守ってくれて。
自分ばっかりたくさんのことを引き受けて。
いまも、わたしをひとりにしないでいてくれて。
それでいて、自分がひとりにきりなったら、そんな心細そうな顔してたんだ?
(ほんと、だらしない先生よ)
これまでも、ずっと。決してわたしたちには、見せてこなかっただけで。
じわり、滲んできそうな涙を、なんとか引っ込めて。
カカシ先生、ともう一度名前を呼ぶ。さっきよりはだいぶはっきりとした声だったが、やはり弱く。どうした?と先生が顔を近づけてくる。
だからわたしは、にっこり笑って、告げるのだ。
「わたしは大じょーぶ!」
ひょっとしたらかなり無理やりな笑顔だったかもしれない。
こんな弱りきった姿で、ただの虚勢にしか見えなかったろう。
それでも。
たとえ嘘でも、ほっとしたように笑い返してくれたから、わたしにとってはそれだけでじゅうぶんだった。
「そんなボロボロになって、なにが大丈夫なのよ」
「ボロボロ具合ならカカシ先生だって負けてないでしょ」
背中に腕を回され、抱き起こされる。不安で覆われていた表情は、わずかに緩んでいた気がした。
介添のために差し出された手を取り、しっかりと握り返した。
ありがとな。そう、言われている気がして。
こちらこそ、たくさんたくさんありがとう。でもそれは伝えず、ふたりして強がりあって意地を張り合った。
ひとりきりで引き受けないで。置いてけぼり同士、支え合わせて。
ねえ先生。先生の重荷を受け止めきるには頼りないかもしれないけど、だったらせめて、一緒に背負いたいよ。
これまでカカシ先生がわたしたちに希望を見せ続けてくれたように。
今度はわたしが、先生の手を引いてあげるから。
だから、これからは、一緒に歩こう。
(20141007)
以下長いあとがきです。激しく本誌に触れますのでご注意。
懲りもせず、693話(以降)妄想です。以前上げた絵の補足というか。たったふたり残されたカカシ先生とサクラちゃん。恋ではない。愛はあるかもしれないけど。
相変わらず、カカシ先生を安心させたいわたしがいます。
サクラちゃんサイドを補足したつもりですが、少しフォローさせてもらうと、サクラちゃんだってたかだか16.7歳の少女。それでもひとの痛みや苦しみにたくさん触れ、自分自身もたくさんのことを乗り越えてきた。そんなサクラちゃんができうる精一杯の思いやり。
カカシ先生を慮って、少しでも安心させてあげたいけど、自分の範疇を越えたことを言って、無責任なことはしたくない。それこそ、「だらしない先生ですまない」のときのカカシ先生の言葉じゃないけど、むやみに夢を見させるばかりじゃなくて、自分がきちんと責任をもてる範囲で応えたい。っていう。
その精一杯が、「わたしは」だいじょうぶ。ということ。
あとのことは支えあって乗り越えればいい。いまほどあのふたりが同じ気持ちを抱いていることもないんじゃないか、と思っています。
なんでこれを今更書いたかといえば、今週の本誌でカカシ先生がハゴロモ仙人に「わたしはどうすれば?」って吐露していたからです。
カカシ先生って、↑でサクラちゃんにも言ってもらったけど、まわりにはいつも希望を見せるけど、かわりに自分がぜんぶ引き受けて諦めようとしているひと、というイメージが強くて。
(この「諦める」というのも難しいんだけど…、たとえば自分の想いを託したり繋げたりしたナルトくんのことは諦めてないけど、自分がそのかわりに盾になるのを辞さないひと。ナルトくんは、みんなも諦めないし自分も諦めない人ひと)
だからいつだって、周囲に向ける言葉はどこか前向きな気がしていました。
たくさんのひとを失ってきたけど、腐らず乗り越えてきた結果、いまやたくさんの部下に囲まれ、教え子もできて、いまは世界の中心みたいな場所にも居る。
そんなカカシ先生がはっきりと自分の不安を口にしたのに、わたしはたまらなくぐっときました。
サクラちゃんにとってカカシ先生は先生であり大人であり、いつだって前を行く人だった。
そんなおとなが見せる不安を感じ取って、思わず手を伸ばさずにはいられなくなった。
そういうおはなしです。…伝わりきらないですね。精進します。
本当に長々語ってしまいすみませんでした…ご覧頂きありがとうございました。