「ごめんね、刑事クン」
それが何に対してのごめんねなのだか、わかるような気はしたけれど、茜はくるぅりと丁寧に振り返り、何がですかと敢えてたずねた。
あ、今たぶん、唇の端引きつってる。
「今日は非番だったそうじゃないか?それなのに、ぼくのために一肌脱いでもらっちゃって」
「いや、脱いだ覚えもありませんし。暇そうな刑事はわたししかいないんですから仕方ないですよね」
挙句の果てに死体の第一発見者。ついたオチがそれか。
はああ、と大げさにため息を漏らしながら、自嘲気味に茜がこぼす。
反して、響也はさわやかすぎる、お手本のような笑顔。
「でもたぶん、そうでもしなきゃきっと来てくれなかったろ?」
「でしょうね」
茜の返答は明快かつ冷酷だった。わかってはいたことだったが。
ただでさえ、成歩堂をはさみあまりいい印象があると言えない状況のうえに、検事と音楽という、まったく別の世界を渡り歩く牙琉響也に対し、不真面目とか不謹慎とか、そういった感情はあるのだろうと思う。
だが実際に本人としては、検事としての仕事はもちろん、音楽活動も片手間とは言いがたい覚悟で臨んでいたのだ。
だからさ、と。
少しの緊張を孕んだことは、絶対に目の前の刑事には伝わっていない自信があった。
「次は素直にプラチナシートを用意してもいい?」
茜ははあ?と改めて眉間に皺を寄せたが、相変わらず響也はお手本のような笑顔を向けたまま。
精一杯の虚勢。
きみに、聴いて欲しい。