「エアリスを守れなかった!! 俺が、エアリスをむざむざ危険に曝すようなことを…!!」
クラウドが力任せに地面に打ち付けた左手の痛みは、それを見ていたティファの心にすべて吸われた気がした。
(わかるけど、でも。わたしも助けたいけど…、でも!)
無論言葉にすることなどできない。ティファとバレットのほうを振り向こうともせず、クラウドは物凄いスピードで階段を駆け上がってゆく。
たとえ逆上してもやはり冷静さを失うことはないのか。バレットの無謀とも言える正面から殴りこみ、という案に首を横に振り、着実に裏口の階段を駆け上がる方法を選んだ辺りがまた憎らしい。
確実に、それでいて一刻も早く。安心した笑顔が見たいとでも? 出会ったばかりの花売りの娘の。
彼は幼馴染。幼い頃から知っている。
…だけれどティファは、一度だって彼のあんな「血相を変えた」様子を見たことがなかった。
ポーカーフェイス、いつだってクール気取って…、特にミッドガルで再会してからはそうだ。
昔からは信じられないくらい、都会に馴染んだオシャレな青年になって。
今までアバランチの活動にはどんな高い報酬をかけてもなかなか協力してくれなかったくせに。
あたしとの約束だって、しぶしぶだったのに!
口を開くと思わず飛び出てきそうな嫉妬の心が怖くて、うしろのほうで必死なバレットの言葉にも応えない様にしていたが。
「おぉいおまえら! ちょっと休もうぜ…、ヒザがおかしくなっちまう!」
休もう、その言葉を聞いた途端、ティファは思わず足を踏み外した。
バランスは崩したがしかし運良く手すりに手が届き、元のリズムに戻すことが出来た。
「おいティファ、平気か!?」
「ええ、ごめんなさい…、休もうだなんて言われたら体から力が抜けちゃった」
「おいクラウドさんよ! コッチはあんたとは違う、ただの人間なんだよ! 何時間も休もうって言ってるわけじゃねぇんだ、このままじゃねーちゃんに会う前に筋肉痛でダウンだ」
「休みをとるなら勝手にしろ、俺は行く」
「…ッカァ〜!! なんだいソルジャーさんよ、俺らなんかの力添えがなくともひとりでなんでもできますってか!おぉいティファ、やっぱここで一息だ!くたばったソルジャーさんを囮にして、俺らでねーちゃん助けようぜ!」
一瞬、うん、と頷いてしまいそうになった弱い気持ちを、首を振って振り払った。
相変わらず前を行くクラウドは、スピードも落とさず後ろの様子を気にも止めない。
くたばるなんて、とんでもない。バレットが本当にそう思っているかどうかはわからないが、あの様子ではたとえ往復しても彼はバテたりしないのではないだろうか。
「…ほらバレット! 急ぐわよ、エアリスは今ひとりで心細い想いしてるんだから!」
そう、あの子は今ひとりっきりで捕らえられている。
助けなきゃ、今すぐに。助けなきゃいけない!
私情をはさんでいる余裕があるなら、そのぶん無心でこの階段を駆け上がったらいい。
「あ、ああ…あーああ。冷血ソルジャーさんにも、人のために戦うことってあんだな」
「…、そうだね」
もう何階分駆け上がったかわからなくなった階段の終わりを頭に浮かべ、ティファは緩みがちだった拳をもう一度強く握りなおした。
複雑な想いは自分の中でさえ認めようとせず。決して、外に出すことをせず。
(2003/05/02 up)
勿論ティファは「エアリスを助けなきゃ!」って想いでいっぱいだったと思いますよ。
だけど、だけどねー!! お ん な の こ だ も ん !!
正直一瞬くらいは、思うことあったと思うんだよねー…というか、あって欲しい!!
なんだかベタベタすぎて、まるでdisc2以降のティファっぽいですが、…ね!
長く書こうと思ったけど、これは引っ張ってもたいしたもん書けねぇだろと、やめた。