「なんかさぁ、最近ミント、あたしやクラースのそばにばっかりいるよねえ」
「…え?」

 よ、と箒から下りて地上に降り立つなり、アーチェは突然そう切り出してきた。その言葉の真意がいまいちつかめず、聞き返した。
 
「あの…迷惑、ですか?」
「そんなわけないじゃん。そうじゃなくってさぁ、」

 そうじゃなくって、ともう一度言ってから、アーチェは先陣を切って歩いていく二人組みの一方―――赤いマントの青年を指差した。

「なんかあのバカに、クレスとられちゃったって感じぃ?」

 今度はあごでその隣の弓使いを示すと、けたけたと笑いながらからかうように言った。が、それに対してミントは反論も顔を赤らめることもせず、それどころか少し困ったように笑うだけだった。
 さすがにアーチェもその異変に気づき、笑うのをやめ、伺うようにミントの顔を覗き込んだ。

「…え?なに?あたしなんかマズイこと言った?」
「あ、いえ、そういうわけでは…」

 そういうわけでは、ない。


 過去の旅の間培ってきた、アーチェやクラースに対するのとはまた少し違う、クレスと自分の関係性。
 いつのまにか、必然的に隣にいることが多かったのは、同じ境遇にいるという安心感からか、…それとも。

 隣にいれることが嬉しくあり、当たり前になりかけていた。
 しかしそれも、旅の舞台を過去から未来へ移したとたんに、めっきりと減ってしまった。

 それは、現代でのクレスの親友、チェスターの旅の加入。
 元々の結びつきの強い彼らが、おなじ不幸を背負いおなじ使命を背負っているのだから、自分たちの知りえぬところで他の仲間とはまた違う、強い絆があるに違いない。


 無論。
 ミントとて、この微妙に崩れてしまった関係が寂しくないと言ったら嘘になる。

 でもそれでも、自分の感情を前に出すことが憚られる理由が、ふたりの間にはあったから。
 わがままなど言っていられない旅なのだから。

 トーティスの話をされるたびに、どこかせつない気持ちになるのに気がついていた。
 その内容は楽しかった村での思い出が大半だったけれど、それが余計にミントの胸を締め付けた。

 それは現代で、ごく短い間3人で活動していた間からの話で、過去へ旅立ったときに忘れていただけで、決して今更のことではないのだけれど。
 
( ふたりで森で猪を追い掛け回したこと、 )
( チェスターの妹・アミィに誇らしげにそれを見せたこと、 )
( みんなで出かけた花畑、星空、…たくさんたくさん笑ったこと、 )
 自分のわからない話をしないで欲しいと思ってしまう気持ちが、嫌だった。


「おふたりの邪魔を、したくないんです」

 ミントは自然と微笑んだつもりでも、アーチェにはそれがずいぶんと寂しげな横顔に感じた。
 時間をともにした時間は少し短いかもしれないけれど、クレスたちの気持ちなど、アーチェには簡単に見て取れる。

「邪魔だなんて思ってないと思うけど?」
「…でも、」

 相変わらず歯切れの悪いミントの気持ちも、わからないでもなかった。だからアーチェもそれ以上たきつけるようなことは言わなかったが。
 しかしミントの表情が曇ったままだと言うのもいたたまれない。ぽん、とその背中を軽く叩いて、そこらへんの男どもにはそう安売りはしない最上級の笑顔を作る。ニッコリ。

「まーいいじゃないの。別にかわいい女の子とふたりっきりってわけでもないんだし、あたしたちより可愛い子なんてそういないし!」
「アーチェさん…」

 軽くウインクして見せたアーチェの心遣いが嬉しかった。歳は変わらないのに、ミントは自分よりもずっと大人びた余裕を感じたのだ。
 だけれど諭されてばかりでは少し悔しかったので、ささやかな反撃。

「それに、アーチェさんも、チェスターさんとお話する時間を増やしたいですしね」
「ちょっ…、な、なに言ってるのかなぁミントさんは!」

 そんな女同士の結託があったとは露知らず、うわさの男二人は相変わらず肩を並べて先を歩いているのだった。




(20070208up)
そして完全に仲間はずれのクラースさん。