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086:しがみつく / 087:サイレンス / 088:震えていた / 089:流星雨 / 090:約束だよ



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088:震えていた(クレミン)


 明かりはほとんどない。せまい廊下のところどころに、ごく小さな照明が設置されているだけだ。今自分が捕らえられている牢屋の中にまでは、その光は届いかない。
 その暗闇と、床から伝わってくる冷気が、より心細さを増幅させる。



 カツン、カツン

 床に響く足音。少なくとも母のブーツの音でないことだけは確かだった。
 

 どんどん自分の元へ近づいてくるのは気のせいだろうか?
 …いや、気のせいではない。足音はどんどん近づいてくる。

 さっきまで、奥の牢屋から聞こえてきた激しい音を思い出した。
 今度は、自分の番?
 思い出したように体が震え出す。こわい。近づいてくる足音。かたい床を歩くそれは金属音のようだった。

 ひざを抱え、抱く。顔を伏せる。


 牢の前に影が立った。誰かが、来た。
 伏せたままの顔を上げることが出来なかった。恐怖で閉じてしまった目さえ開けられないでいる。

「…あの、」

 しかし予想ははずれた。
 発せられた声は、家を襲ってここまで自分と母を連れ込んだ騎士団の荒々しいものとは、明らかに違っていて。
 どこか不安げな、だけれどとてもやさしい声。

 ミントはゆっくりと目を開けて、顔を上げる。

「大丈夫?ケガはない?」

 彼は手に持っていた剣でガチャガチャと鉄格子をこわしはじめた。
 少し時間は掛かったが、なんとか鍵は開けられ、ゆっくりと近づいてくる。


「心配しないで、僕はきみを助けに来たんだ」


 そう言って差し出された手は迷い無く取ることができた。体の震えは、いつのまにかすっかり止まっていた。



(060930/原作準拠シリーズ/初出:web拍手)



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