056:賭け / 057:強がり / 058:ふわふわ / 059:信じるということ / 060:視線
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059:信じるということ
空を埋め尽くすかのような魔物の群れ。確か今日は晴天だったはずなのに、青空がすっかり真っ黒く覆われてしまった。
惑うことなく飛び込んでいったクレスとアーチェの背中が、どんどんと小さくなっていった。
「…こんなとき、役に立てない自分が歯がゆいです」
ミントが唇をかみ締めながらそう言った。
胸の前で手を組み、祈るような格好をしている。
召喚術で、地上付近にまで舞い降りてきていた魔物たちを一掃し戻ってきたクラースは、ミントのそんなつぶやきを聞いて細いため息をひとつ。
「仕方がないさ。私達に羽根でも生えてれば別だがな」
少しでも笑ってくれればと思ったが、ミントの表情は相変わらず晴れぬままだった。
「…アーチェさんやクラースさんがうらやましい、と思ったことがあります」
ミントがそっとまぶたをおろした。
「法術師であることを恥じたりしたことはありません。敵を倒すことはできないけれど、それでもわたしはこの力で、みなさんと戦ってきました」
もう一度空を見上げる。
滅入るような黒い空。
「でもそれでも…、こんな危険に立ち向かうおふたりを、ただ祈るしかできないだなんて…、」
こんなときは自分は無力だと嘆くばかりしかない。
ここからどれだけ術を唱えても、傷を癒す力にはならない。
神に祈りは捧げられても、自分の力で役に立てることが、ひとつとしてないだなんて。
「あいつらなら大丈夫さ。そんな心配することはない」
「…」
「まぁ、心配するなとは言わないが…」
まったく浮かない様子のミントの頭に、ぽんと手を置いた。子供をなだめるように。
驚いたように見上げてくるミントに、できるかぎりの優しい笑顔を向ける。
「戻ってきたら、笑って迎えてやれ。それがなによりの励みになるんだ」
「…はい!」
しっかりとした声と、晴れやかな笑顔。
クラースのよく知るミントだった。
「ミント殿ー!申し訳ないがこちらの兵士の治療をお願いできますか!」
「あ、はい!今行きます!」
やれやれ、と言いながら、走り去ってゆくミント背中を眺めてから、クラースはまた視線を空に戻した。
目に見えて魔物の数が減っているわけではないが、ときたま見える派手な光から察するに、きっと順調なのだろう。確証は無いが、あれはきっとアーチェの放った魔術だ。間違いない。
(大丈夫だ)
まるで自身にも言い聞かせるためのように、クラースはひとつ、深く頷いた。
(061101/元ネタ:ドラマCD/原作準拠シリーズ)
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