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051:手に余る程の / 052:寄り添う / 053:強敵 / 054:手当て / 055:君の美徳



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052:寄り添う


「ん…、」

 朝の陽射しはやわらかいけれど、それでも確実に夢の世界から連れ戻してくれる。
 昨日のうちに町に着くことができなかった一行は、手ごろな場所を見つけて野営を張ったのだった。

 まだはっきりとしない頭のまま、これからの強行軍を思えば、正直なところ再び目を閉じてしまいたかった。復讐目的の旅とは言え、四六時中そればかりを考えているわけにもいかなかった。疲れるときはあるし、眠りたいときもある。
 けれども朝は毎日やってくる。とは言えこの旅をはじめてからというもの、これまで当たり前のことにしか感じていなかったそのありがたみを、幾度も噛み締めたことがある。

 今日も頑張らなくては。そう思ったところで、ふと肩に感じた重み。


 そうっと首をまわして確かめてみると、思わぬことに驚く。ミントが自分の肩に身を預けてすやすやと寝息を立てていたのだ。

(そうか…)

 夕べ、夜更けまで隣り合って座って、ふたりであれこれと語り合ったのだった。これまでの旅のこと、これからの旅のこと。眠っている仲間たちを起こさぬように気遣いながら。
 それは今後の計画とかいうような類のものではなく、どちらかといえばお互いが感じてきたこと、これから立ち向かってゆく先に感じるあろうこと、そんなひどく漠然とした話だった。

 そういえば、眠ろうとしっかりと目を閉じた記憶がないのだ。話している途中に眠ってしまったのだろう。ミントの話をきちんと聞けなかったことを申し訳なく思いつつ、肩に感じるささやかな重みに、なぜだか不思議と幸せを感じてしまう。


(起こしちゃ、かわいそうだ)


 そうしてそのささやかな幸せを噛み締めながら、再びゆっくりとまぶたを下ろしたのだった。



(061002改定/元ネタ:OVA3巻/初出:web拍手)



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054:手当て


 剣技を扱うクレス、法術を扱うミント、召喚術のクラース、魔術を使うアーチェ。
 後者3人は、自らの力を発揮するためにはある程度の詠唱が必要となるわけで。

 クラースにせよアーチェにせよ、攻撃力は相当なものだが、いかんせん技の力に比例して、詠唱時間もそのぶん要することが難点だった。
 ミントもミントで、その持つ力が仲間の回復をはかるものだと知ると、すぐさまその詠唱に邪魔が入る。
 だがそれはこちらも同じ事で。みすみすその詠唱の完成を見逃すことはできないわけで、だからこそ、そうした術師から叩きに掛かるのは正論であり。

 つまりは、結局はすべて、クレスの腕にかかっていた。
 仲間を守り、詠唱時間を稼ぎ、目の前の敵を倒し、前へ、前へ進む。
 ゆえに、彼に圧しかかる疲労と心労は、他の仲間たちと比べてもはかりしれないものだった。


「いてっ…」
「あ、ごめんなさいっ」

 苦痛に顔をゆがめたクレスに、もっとつらそうな顔でミントは謝罪した。

「ハハ、なんで君がそんな顔するのさ」
「…」
「…ミント?」

 傷を負ったクレスの腕をやさしく包みながら、ゆっくりとあたたかな光を当てていく。
 法術の力の原理はよくわからなかったが、祈りの力なのだという。ミントの祈りなのだから、それだけでなんだかとても効きそうな気はするのだが…。
 しかしそんなクレスの想いとはうらはらに、やはりミントの表情は重い。

「…わたしが、もっとクレスさんの力になれたら」
「何言ってるんだよ。じゅうぶんミントには助けてもらってる。この治療だって、」
「いいえ、そういうことではなくて…」

 ぽう、と光がやみ、気が付けば痛みも引いていた。
 傷跡を確かめようとクレスが腕を動かそうとしたが、ミントの手に制された。まだ動かさないでと言いながら、そっとひと撫で。


「傷を負ってからではなく、傷を負う前にあなたを助けたい」


 きっと何をしたわけでもない動作だったはずなのに、腕は何事もなかったかのように元通りになっていた。
 まるでそれは魔法のように。

 彼女の想いと祈りがあるのなら、どれだけ傷を負っても立ち上がれる自信はあるのだが、その潤んだ瞳に見つめられると、残念ながら今のクレスにはそれを伝えるほどの勇気はないのだった。



(071026/過去の自分の尻拭い月間/結局へたれ)



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