006:ヒーロー / 007:たったひとり / 008:帰路 / 009:痛み / 010:回りくどい
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006:ヒーロー
小さなころは、おはなしの中のお姫様みたいに、王子様が迎えに来てくれるのを待っていた。
そんな、夢の世界のヒーローに、あこがれていた。
だけれど夢に見た、手を差し伸べてくれる人はいつからか、どこかの国の見目麗しい王子ではなくなってしまっていた。
今心に想う彼はどこかの国の王子様ではないし、自分も籠にとらわれたお姫様などではない。
なにより、もはや王子を悠長に待っていることができなくなってしまった。
待っているヒマがあるのなら、自分から向かっていかなければ。だけれど突然そんな窮地に追いやられ、足がすくんで動けない。
そんな自分に、立ち向かってゆく強さをくれたのは、誰であろう、彼。
まっすぐにわたしを見つめられて、それから名前を呼ばれるだけで、心にたちこめる不安も消えてゆく気さえして。
どこの誰とも知らない王子よりも、ずっとずっと頼もしい。
「ミント!」
差し伸べてくれる手をとれば、どこへでも連れて行ってくれるような。
思えば最初に出逢ったときも、彼の手をとってはじまったのだ。
そして、これからも。
彼に手を引かれて一緒に歩いて行く先ならば、どんな困難が立ちはだかってきても、きっと乗り越えられる。
わたしを救い出し、自分の力で立ち上がる勇気をくれた、彼が。
握り締めた手のひらから、多くのものをくれた彼こそが。
たったひとりのわたしだけのヒーロー。
(061014/ポエム…?)
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007:たったひとり
目が覚めて。
やわらかな日差し、鳥のさえずり。
毎日変わらない時の流れ。まぶしい朝。
いつもと変わらない、朝。
それなのに。
自分の名を呼ぶ母の優しい声。
鍛錬に励む訓練生と、檄を飛ばす父の声。
それらは決して、眠りやすい自分のベッドだからとか、食欲をそそるおいしそうなスープのにおいだとか、そんな単純なことではなくて。
ありがちな、失って初めて気づく、大切な、いとしい当たり前のもの。
(…ああ)
土の上でひとり目覚めて、冬でもないのに少し身震いがする。
体がきしきしするのは、硬い土のせいばかりではない。
これまであった安心を失うのは、こうまでして恐ろしいことだったか。
僕はたったひとりきり。
(071026/すんませんもはやルール違反)
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009:痛み
「…これは…」
ペガサスの協力を持っての空中戦を終え、一息ついて街中を見渡したクレスは愕然とした。
あの美しく整備されたミッドガルの街の、三分の一が大破している。ずいぶん遠くのほうからも、煙が上がっているのが見える。
「魔科学兵器が…魔導砲が、暴発したんです」
ミントが言いづらそうに口を開いた。直視できない、と言った様子で目も伏せられて。
「暴発?」
「…はい。二度目の発射のときに…」
はっきりとした理由はわからないがと付け加えた後、ミントは重苦しげに口を開いた。
暴発の原因はおそらく、魔導砲がその莫大なエネルギーに対応し切れなかったためと思われること。
そして何よりも、過信。
「…思えば、自然の力であるマナを人間が扱おうとしたこと自体が、間違った考えだったのかもしれません」
一発目、そして間をおかず二度目の発射。そもそも魔導砲に必要なエネルギーとは、エルフが使う魔術と同じマナである。純然たる自然の力。エルフの紡ぐ魔力からは計り知れない、膨大な量のエネルギーを操る必要があった。
それは果たして人間の手におえる代物か、いいやそれどころか、足を踏み入れてはいけない力だったのか。
「敵を退けることができても、それによって街が、たくさんの人たちが傷ついてしまうのなら…、そんな力は…」
言葉が終わらぬうちに、クレスは近くで瓦礫をどかしている町民のなかに加わって行った。
ミントもそれに続く。人の力だけで動かせるのは、本当に小さな瓦礫ばかりだ。人間とはどんなに非力なのだろう。
「この結果を見るまでは、魔導砲に希望を抱いていたのはわたしたちも同じです。
ライゼンさんや、研究者の方々が作ろうとしていたものは、ひとを守るためのものだったはず。…もちろん、こんな結果を生むためではありません」
わかっている、わかっているからこそ。
このやるせない想いは、どう抱えていけばいいのか。
一応、OVAを見る前から考えていたこと。だけど見ちゃったらクレスサイドの気持ちだけでは書けなくなってしまってずっと放置。
とりあえずとってつけたようなせりふを付け足してはみたけど、結局納得はできてない感じかもです。
(071026/ずっと書きたかった話)
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