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001:始まりはいつも / 002:第一印象 / 003:つまらない / 004:熱でもあるの? / 005:まぶた



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004:熱でもあるの?


 最近の雑談の内容といったらもっぱら、「これが終わったらどうするの?」である。

 これ、が何を示すのかはもちろん誰もが言わずともわかったし、言おうとしたところで言い切れるような、簡単な出来事ではないことも皆がわかっていた。
 だからこそ、“これが終わったら”。そんな簡単な聞き方で充分だった。


 もちろん、『終わる』と言う言葉の意味が、必ずしもいい意味とは限らないわけだが。
 でもそれはみんなが考えないようにしていた、暗黙の了解。




「クレスさんは、どうなさるのですか?」

 先頭を歩くクレスに寄り添うように歩くミントが言った。
 どうやら後ろのほうで、『夏と言えば』談義に花が咲いているようで、スイカ派、アイス派、花火派で割れているご様子。
 もちろんらちがあくわけもないので、ミントはその不毛な言い争いには参加をせず、前を歩く少年の隣を選んだのだが。

「うーん、そうだなぁ…。ひとまずトーティスの再建、かな」
「…再建」
「うん。かなり大変だとは思うけどね、出来る限りのことはやってみるつもりだよ」

 クレスとチェスターの村に起こった悲劇については、時空転移の旅が始まる前に、ミントもいくらか聞いていた。実際目にしたわけではないが、胸が痛む。それでも目の前のクレスが、希望をもって語っていることが救いだ。
 ミントは思い直して質問を続けた。

「村の再建が終わったあと、は…?」
「そうだなぁ」
 クレスはうーんと腕組をして、想像をめぐらせる。

「父さんみたいにアルベイン流の剣術道場でも開こうかな。でも、そのためには今からもっともっと鍛錬を積まないと」

 どんどん笑顔になっていくクレスを、ほほえましげにミントは見つめていた。
 いつだって先頭のときは最前列で頑張る彼。敵と対峙するときはいつも先頭に立ち、仲間に背中しか見せないけれど、きっとあどけなさの残るその顔つきも、緩むことなく目の前の敵を睨みつけているのだろう。
 それでも夢を語る彼はこんなにも希望に満ちていて、17歳らしい顔をしている。

「それで、いつかおよめさんをもらって、自分の子供にも同じように剣術を―――…」

 そこまで言ってクレスは言葉を止める。
 およめさんを、もらって。

 漠然とした言い方ではあるが、今一瞬自分の中に見えたビジョンは何だ?

「クレスさん?どうかなさいましたか?」
「え、いやー…その、」

 突然話すのをやめたクレスを不思議そうに見つめてくるミントの顔は、自分の身長が17歳の男にしては低いせいで思ったよりも近い。
 
 なんだか、妙な気分だ。
 
 今確実に頭の中に出来上がっていた未来予想図の中には。
 この目の前の少女と幸せそうに笑う自分がいて。どうやら子供もいて。

 昔自分の父親と母親がそうだったように、剣術の稽古にいそしむ自分を、笑顔で見守っていて―――。



 自分の体温が一気に上昇していくのがわかった。ああ、きっと耳まで真っ赤だろう。
 ミントから目を逸らしたい、でも―――、できなかった。


 そうなりたいと願ったことは、たぶん何度もあると思う。
 そうなればいいな、とか、淡い期待は。

 自分がミントに対して、他の仲間とは違う特別な感情をもっているのだなと気付いたのはそう最近のことではない。あの希望のない地下牢で、似たような境遇だったふたり。挫けずにいられたのは、ミントがいてくれたおかげであろうと心から思う。

 でも言葉にして伝えることはできずにいた。いつかは、いつかはと思っても、バッドエンドをおそれては口をつぐむ。その繰り返しだ。
 嫌いだとはっきり言われるよりは、曖昧でもこのままのほうがいい。適当な言い訳をつけて逃げてはいるが、要はチェスターやアーチェに言われるように意気地がないだけである。それは重々承知の上。



(…でもミントがいつまでも放っておかれるわけもないしなぁ…)


「…あの、クレス、さん?」
「え、あ、は、はい!」
 考え込んでいるところに不意に話し掛けられて思わずどきっとした。
「…その…、素敵、な、夢ですね…」
「…ミント…」

 向けられる笑顔はあまりにも優しく。
 なんの努力もなく、毎日それを眺められるありがたみを忘れかけていた。
 そのくせ、自分は特別であるかのように錯覚したりして…。

「クレスさん?」
「ミント…」
 
 わかっているのだ、動かなければ何も変わらないのだと。
 決断は延ばすよりも、早いうちに―――。
 

「ちょっとおー、なぁに見詰め合って顔赤くしてんのお?やめてよねー、これから砂漠に行くってのに、今から熱くてヤケドしそーう!」

 突然の乱入に、クレスは大げさに驚き、用意していた言葉はすっかり飲み込んでしまった。

「アーチェ!何言ってるんだ!」
「アーチェさんっ!」

 擦り寄ってくるアーチェに、さらに顔を赤く染めて反論するふたりを眺めながら、汗をぬぐいながらクラースがひとりつぶやく。

「まったくあついねぇ…」



(061101/原作準拠シリーズ)



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