「あ…」

 ミントが思わず感嘆の声を上げる。
 しかしそれに気付いたのは、彼女のすぐそばを歩く青年ただひとりであった。

「どうしたんだい?ミント」

 そのひとりが偶然にも彼だったことと。
 このすてきな偶然に彼と居合わせられたことに。
 心の底から感謝の念を込めて、にっこりと微笑む。

「虹ですよ、クレスさん」
「え?」

 ミントの指し示す方向を見ると、そこには太陽をぐるっと囲むようにしてできた円状の虹。

「うわぁ、すごいなぁ…!」

 クレスも思わず感嘆の声を上げると、後ろをふわふわとのんびり飛んでいたアーチェも、興味深げに近寄ってくる。

「なになに?なに見てるの?」
「ほら、虹だよ」
「あれー、でも今日ってピーカンだよね?」

 午前中に町を出た一行だったが、これまで一度も雨には降られていないどころか、雲すらそう多くはない快晴であった。道中、まさに今日は旅日和だなどと話していたのだから。

「おお、日暈か」
「ひがさ?」

 しんがりを歩いていたクラースも横に並んだ。
 しかし彼の言葉に日差しを避けるためのそれを思い浮かべたクレスは、会話とのつながりを見つけられず、首をかしげる。

「あるいは光輪(こうかん)や日輪(にちりん)とも言い、太陽の前に、氷の粒でできた雲があると、それに光が曲げられてできる現象のことだ」

 まぶしい日差しを手で遮れば、手のひらが赤く透けたように見える。

「まぁ正確には、これは虹ではない。虹は、太陽を背にしてできるものだからな」
「えーいいじゃんよ別に。7色なんだから虹と同じでしょー?夢がないわね、これだからおっさんは」
「なッ! …くどいようだが、わたしはまだ20代だ」
「そういえば、なんで虹って7色なわけ?」
「おまえ話を…。それにあれは虹じゃないと…」
「んもー、いちいち細かいこと言ってるとハゲるわよ!」
「んなッ!」

 簡単には収集しそうにない諍いに苦笑いしながら、クレスとミントは再び空に視線を移す。
 太陽を囲むそれは虹ではないそうだが、7色であるのだし、アーチェの言うように虹となんら変わりないように思える。

「小さいころ、虹のふもとを探したくて、ずっと走って追いかけたことがあります」
「あ、それなら僕もやったよ。でも追いつけないまま、いつのまにか虹は消えちゃってるんだよね」

 幼い頃、それは空に架かる橋だと思っていた。
 辿ってゆけばその先には、想像もつかないほどの希望にあふれた世界があるものだと。
 子供の時分で創造出来うるすべての理想をいっぱいに詰め込んだ世界が。

 だが時は経ち、現実を吸収した分だけ、そのカラフルな世界はどんどんと具体性を帯びてゆく。
 あたたかな日差しと、やさしい風に揺れる緑。小鳥たちのさえずり、まわりを振り返れば、大切な、大好きなひとたち。

 そして―――。


「でもあれには、たどり着けないね」

 まぶたに思い描いていたひとの声が、ミントの意識を再び現実に引き戻す。

 ああ、そうだ。太陽を囲む日暈は、やはり虹ではない。
 いつまでもたどり着けない世界。
 そしてその世界は、足を踏み入れたら最後、ぐるぐると抜け出せない。

 希望の世界は、夢ではない。


「そうですね」

 今なら。
 虹の橋を渡らずとも、自分の足で希望の世界へと歩いてゆける。そんな気がした。

(みなさんと一緒なら)


 いいや、一緒でなくては。目指す未来には、皆が一緒でなくては。



「さあ、先を急ごう。日暈の出た日の翌日は雨になることが多いといわれている。今日中に次の街に行って宿を探すぞ」

 いつの間にかアーチェを落ち着かせていたクラースの言葉にしっかりと頷きながら、一行は太陽を背に再び歩き出した。




(060930)
参照:http://www.tbs.co.jp/morita/qa_tenmon.html
もりたさーん

一応クレミン前提なんでクレミンカテゴリに入れちゃいましたが、要素薄すぎですね(;´Д`)
以前web拍手用に使用していたものは、もっとクレミンぽかったんですが…
「あ…」

 ミントが思わず感嘆の声を上げる。
 しかしそれに気付いたのは、彼女のすぐそばを歩く青年ただひとりであった。

「どうしたんだい?ミント」

 そのひとりが偶然にも彼だったことと。

 このすてきな偶然に彼と居合わせられたことに。
 心の底から感謝の念を込めて、にっこりと微笑む。

「虹ですよ、クレスさん」
「え?」

 ミントの指し示す方向を見ると、そこには太陽をぐるっと囲むようにしてできた円状の虹。

「うわぁ、すごいなぁ…!」
 クレスも思わず感嘆の声を上げる。
「なになに?なに見てるの?」
「おお、虹か」
 それを聞いたアーチェとクラースもふたりのそばに寄ってくる。
 そこでアーチェはすかさずクラースに「虹ってどうして七色なの?」と質問をぶつけ、返ってきた難解な回答を首をひねる。よくある風景だ。
 そんなふたりを横目にくすくすと笑いながら、先ほどより若干薄らいだ虹を眺めて、クレスがつぶやく。

「もうすぐ消えそうだ…」
「そうですね、でも」
「でも?」

 クレスが視線を虹からミントに動かすと、ミントは少し頬を赤らめた。

「…内緒、です」


 今日の虹はすぐに消えてしまうかもしれないけれど、でもまたいつか見る虹を、今日と同じようにあなたの隣りで見れますように。
 消えゆく虹に、そんな密かな願いをかけたのはここだけのはなし。
ほぼ書き直しになっちゃいました。