「あああ〜でもかっこよかったなぁー。白馬に乗ってばばばーんと魔物を薙ぎ倒していくクレス!ミントにも見せてあげたかったよ〜」

 きゃははと笑いながら話すアーチェに、ミントはあいまいな笑みを浮かべるしかできなかった。

 …どういうつもりでその話を?

 クラースはいち早く、ミントから発せられている謎の冷気に気がついて、気付かれないようにそっと離れると言うかたちで避難していた。
 一方ホウキにまたがってくるくると回転浮遊しながら、アーチェの楽しげなおしゃべりは続く。

「だけどさぁ、白馬だって白馬!昔話の王子じゃないんだからさぁあはははは!」
「でも、すてきじゃないですか。白馬に乗った王子さま」
「えー、もしかしてミントってば、『いつか王子様が…』なんて言っちゃってるクチぃ?やめなよやめなよ、ミントだったらそんなん待たなくてもそこらじゅうに転がってるって〜」
「そんなことは…」
「それに王子サマなんていまどき流行んないよ〜?やっぱ男はルックスでしょ!そりゃ結婚まで考えるんだったら性格も考慮しなきゃだけど、ただのお遊びだったら隣に並べて絵になるほうがいいもんねぇ〜。あ、でもお遊びにしても結婚するにしてもある程度のお金はいただきたいかなぁ…。その点クレスはルックスもまぁいいし性格も悪くはないけど、どうも煮え切らないとゆーか、もっとこうズバッと決めてもらいたいときもあるし、それにお金のこと考えるとなぁー。もちろん剣士としては将来性はありそうだけど、それこそ安定望むのはちょっと難しい気もするし、そう考えるともっと堅実な職業の人探したほうがいいかなぁって気もするけど、でもちょっと遊ぶだけなんだったら、クレスだったら間違いなく顔も性格も合格ラインだし、だったらちょっとちょっかい出すには最適かなぁ〜とか思、」


 ドスッ


 クラースは背後で、何かはわからないけれどとにかく大きな音を聞いた。
 思わずびくんと震えてしまった自分の肩が若干恥ずかしかったが、たぶん誰もそんなことは気にしていないだろうと思った。

「み、ミン…?」
「あ、すみません。手が滑ってうっかり杖を落としてしまいました」

 さっきまで饒舌に語っていたアーチェだったが、一気に舌がその動きを止めてしまった。
 表情までもが、たぶん凍りついたのではと思う。

「…手が、滑って?」
「ええ」
「…うっかり?」
「はい」
「落とし…?」


「アーチェさん、何か?」


 ミントの笑顔は今まで見たことのない、とてつもなくきれいなものだったけれど、どうしてだろう、二目と目を合わせることができないのは。
 アーチェは乾いた笑いを浮かべながら、ミントと微妙な距離を取り始めた。






「お待たせー、みんな…って、あれ?」

 戻ってきたクレスが目撃したのは、微妙な距離を開けて立っている3人の仲間たちだった。
 不思議に思いつつ、近くでぷかぷか浮いていたアーチェに声をかける。

「アーチェ、どうかしたのかい?」
「えっ? あの…、ほらもう行こうよ!」

 しかしアーチェは、クレスと目も合わさないまま高度を上げ、空中をうろうろしはじめてしまった。

「アーチェ?」

 そんなアーチェを怪訝な表情で眺めつつ、頬を掻いた。すると、後ろからクレスさん、と自分を呼ぶ声がした。
 振り返ったクレスの後ろに立っていたのは、いつものように愛用のロッドを握り締めて、にっこり笑ったミントだった。

「クレスさん、この先どちらに向かうかは訊けたのですか?」
「ああ、道具屋の主人が親切に教えてくれたよ。このまままっすぐ街道を行けば次の街に行けるって」
「そうですか、では、日が暮れる前に早く歩を進めましょう」
「え、ああ…」 

 ゆっくりと歩き始めたミントの背中を見つめつつ、クレスはどこか釈然としないまま、肩にかけた荷物を背負いなおした。
 そんなクレスの肩をぽんと叩きながら、クラースがつぶやいた一言。


「罪な男だなぁ…」
「は?」



(20050715)
あれ?こんなふうになる予定では…。なに、もっとシリアスと言うか、「わたしの知らないクレスさんを」とかそんな展開になるはずだった…のに。
あーやっぱ凶暴化するヒロインばっか書きすぎたんだきっと。