助けてと泣いてすがって(銀+神)
怖いのなら、その心臓を貫くような目で、今わたしを殺してしまえ。(土+神)
あああ、もう。(土神)
ひたむき(土神/金魂)
北風とチャイナ(土神) new
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助けてと泣いてすがって
少しばかり、それを切り出されることをおそれていた。
「銀ちゃん」
なんだよ、キャラに合わねー控えめな声出しやがって。
「もしヅラが江戸の天人たちを消しはじめたら」
ったくあのヅラさっきはよくも。何の考えもなしにペラペラペラペラ。
幼く見えるがよっぽど汚い世界を目にしてきたんだ。察しやがれってんだコノヤロー。
「私のことも消すアルか」
ばかやろう、今日のおまんまのことで頭がいっぱいのガキなんぞ殺したって、なんの得があるかよ。ほんとばかだ、ばかだな、お前は。底なしのばかだ。
おいおいなんだよ、なんで無表情なんだよ。
ああ頼むから、そんな悟りきった顔をしないで、せめて不安げな瞳でもしてくれないか。
立ち向かおうだなんて思うな、誰も目に止めないような小さくて弱い存在でいろ。
銀さんのうしろに隠れて誰にも気づかれないような、そんなちっぽけなガキでいろ。
(070202/第六訓)
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怖いのなら、その心臓を貫くような目で、今わたしを殺してしまえ。
「クソッ…、」
口に溜まった血を、痰とともに吐き出す。
地面を踏みしめる音が近づいて、顔を上げた。
「女相手だと本気出せないってのカ」
「てめ、チャイナ…」
悪態をつこうとした土方の口は、それから何も言葉を紡がなかった。
いつものようには、相手にふざけた様子は見られなかったからだ。
「フェミニスト気取りカ。お前いつか死ぬヨ」
それまでどれほどの覚悟で、死線を生きてきたかなど知らない。
戦場に、自分のような女がいたらどうするつもりなのだろう。
戦の中で生き血をすすり続ける化け物が。
それでも同じように、斬ることをためらうのか。
「お前が俺を殺すのか?」
わからないから、忠告しているのだ。
(070202up/柳生編解決後?)
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あああ、もう。
「…暑ぃな」
額の汗が、まぶたへと落ちる。
先日そうして垂れてきた汗を放っていたら、目に入ってひどくしみたのを思い出し、ふぅと大げさなため息を吐きながら手の甲でぬぐう。
夏は嫌いだ。暑いから。
昔は好きだったのにな。夏。暑い暑い夏。
家の近くにあった用水路や、ちょっと遠出して川でばしゃばしゃ水遊び。
森に入れば木々のさざめきが涼しいような気がしていた、あのころ。
若さだろうか。
道場の庭で、みんなで種を飛ばしながら食べたすいかの味を覚えている、気がする。
翌年にはそこから芽が出て、小さなすいかが出来たんだった。
公園のベンチは木陰にあったが、ほぼ無風のため、涼しさはなかった。それでも炎天下の下、この通気性の悪い隊服で歩き回るというのもただただ暑いばかりだったので、ひとやすみ。取り出したタバコに火をつけた。
ただでさえ暑いと言うのに、生き急ぐようにミンミンジージーと蝉達の大合唱が、それを助長させる。
と言うのに。
しっとりと汗ばんだ手を離すつもりは、毛頭ないのだ。
(フツー逆だろ)
自分の腿に桃色の頭を乗せて、すやすやと眠る小娘の、この小さな手を。
(080815/初出:2008夏オムニバス)
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ひたむき
「触れたい」
夜の闇のような深く黒い瞳が、おそろしいほどに真っ直ぐと見つめてくる。
一体いまさら何の確認なのだろう。ついさきほどまで、何の遠慮もなく、その指と唇がしてきた行為はなんだったのだろう。
「触れたい」
美しい顔が近づき、まだ少し荒い呼吸を続ける唇を無理やり塞がれる。
死んでしまう、と思った。
ようやく息継ぎの合間に、首元に埋もれる黒髪の頭を抱きしめながら、あなたはわたしをどうしたいの、と問えば、
「…奪ってしまいたい」
誰のものにもならぬよう、ここであんたの息を止めて。
静寂の中でさえ溶けそうな声でそうつぶやいて。
そうしてもう一度、深く深く口付ける。
大きくて無骨で、だけれど繊細で美しいその手で、わたしは再びベッドに沈められる。
(101113/金魂土神)
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北風とチャイナ
巡回の途中、一服しようとライターを取り出すが、手がかじかんでうまく火をつけることができないでいた。
「不器用アルなー」
うるせえ、と視線もくれずに格闘すること数回、諦める。なんとなく気がそがれてしまった。
くわえたタバコを箱に戻し、ようやく声の主に目を向ける。
この寒さの中だというのに、少女は普段のチャイナ服に、マフラーをまいているだけだった。
7分丈からのぞく、白すぎる素肌が寒々しさを助長させる。
「テメー、寒くねーのかよ」
「ハン! 子供は風の子アルよ!」
なぜか偉そうに、胸を張られた。
だとしたら、くしゅんくしゅんと時折聞こえるそれはなんなのか。
「…めんどくせー」
はあああああと大げさすぎるため息をついたと思えば、土方がおもむろに上着を脱ぎ始め、そしてそのまま神楽の薄い肩にかけられる。
一瞬、意味がわからず変な間を空けてから、目を見開いて土方に食って掛かった。
「ほ、施しなんて受けないアルよ! 知らないおっさんからお菓子もらってもついてくなって銀ちゃんに言われたアル!」
「おー、知り合いのかっこいいおにーさんから上着もらっただけだから問題ねーだろ、それについてこなくていい」
おっさんでもお菓子でもねーし。
それだけ言い残して、土方はさっさと行ってしまった。
「アイツ、なに考えてるアルか…」
ぼうっとその背中を見つめながら、ようやく神楽は今の状況を把握しはじめる。
上着ですっぽりと覆われた身体より、冷たい風にさらされた顔のほてりがとまらないのは、なぜなのか。
「オマエが風邪ひいたら、どうするアルか…」
きゅう、と上着のかけられた肩を抱きしめると、タバコのにおいがした。(20140113/初出:2014冬オムニバス)
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