山入って、掘ってきたから。
 みんなで食べなさい!とスーパーのビニール袋に入れられた筍を5本も、随分乱暴に押し付けられた。

 公僕と致しましては、果たして勤務中の受け取りとは法的にはいかがなものが。
 なんて倫理的なことを考える暇もなく、その眼鏡姿の御婦人は、スクーターであっという間にいなくなってしまった。


「…おいおい」

 託されたそれはずっしりと重く。
 スーパーのビニール袋はあまりに頼りなく、両手でしっかりと抱えていないと破けてしまいそうだった。








 しかし参った。今日の見回りはあいにく徒歩なのである。

 というよりも先日、どこかのやんちゃが「首取ったりィィィィ!」となどとのたまって、公用車の点検中の自分に向かってバズーカを放ったのだ。
 辛くも自らの身は守ったものの、代わりに自分の愛用していた車は見るも無残な姿となってしまった。

 部下たちは俺の車をと声を掛けてくれたが、歩いてもさほど大変な距離ではないし、何よりそのおかげで他の隊員の職務がおろそかになるのであれば本末転倒だ。
 よほどのスピード違反でもない限りは対応できるしと、結局ひとりで歩いて屯所を出たのだ。

(やっぱり車借りてくるべきだったな…)

 はぁー、と大きなため息。今更思っても遅かった。
 赤ん坊を抱くように左手で筍を抱えながら、胸ポケットからたばこを取り出す。
 もういちどため息。注目を浴びている気がするのは、きっと気のせいではない。真撰組鬼の副長と筍という組み合わせは、我ながら異様であった。


「タケノコの里アルか!?」
「おお、チャイナ娘」

 そんな自分にも臆せず近寄ってくるのは、きっと筍おばさんとこの万事屋の小娘くらいであろう。
 淡い黄色生地チャイナ服が、桜色の髪色と相まってなんとも春らしい。
 いつものように酢昆布をくちゃくちゃと噛み締めながら、何気なく隣へ並んで歩き出す。

「歩いてたら押し付けられたんだよ。スクーターのばーさんに」
「いいアルな〜。筍ご飯。煮物もうまいし刺身でもいけるアル」
「お前、たくあんと白飯だけで幸せなんじゃなかったのか」

 というか、意外にも家庭的なメニューがするすると出てきたことに驚きだった。
 こだわりなく、食べられるものはなんでも胃袋におさめているというイメージだったのだが。
 甘く見てもらっちゃ困るアルな、と小娘はなぜだか得意げに鼻をこする。

「…お前、持ってくか?」
「まじでか!」

 どうせ持ち帰っても、料理に不慣れな隊員が四苦八苦しながら調理をすることになるだろうし。
 これを抱えての見回りというのも、なんとなく様にならないものもあったし。

 万事屋に恵んでやると思うとあまり面白くはないが、育ち盛りの子供がまた飢えて砂糖を舐めて過ごすなんてのも、人聞きが悪い話であったし。
 なにより、すぐ隣で明らかに期待に満ちた瞳でじいと見つめられたら、なんだかそう言わざるを得ない雰囲気であったのだ。

「新八にタケノコご飯作らせるアル」

 重いだろうかなんて気遣いは微塵もなく、土方が左手に抱えていたビニール袋を手渡してやれば、今にもスキップでもはじめそうに浮かれた気分が伝わってくる。元手ゼロでここまで喜んでもらえるのなら、気分も悪くない。
 筍おばさんの意図は汲みきれなかったが、単なる好意ならまぁそれで構わないし、後ろめたい話であるならそれこそこの子供の胃袋におさまるほうが合理的であるかもしれない。

「そしたら多串くん、それ持って花見に行くアルよ」

 そんな言葉に悪くないかもななんて思ってしまった自分は、少し後ろめたいところもあったのだけれど。



(20080407)
2008年土神春祭り様に献上させていただいたものです。時効?かと思ってあげてしまいます…。
関係者様、もしご覧になって問題あるようでしたら、お手数ですがご一報頂けますようよろしくお願いいたします。