花見の席のにぎやかし、それが今回の7班の任務であった。

「…んー…」
「んー、じゃないってばよー!責任感じろーカカシ先生ーェ!!」

 ナルトが地団駄を踏みながら、カカシを責め立てる。
 毎度のことだが、今日もカカシの遅刻により、任務受付所へ出向いた時刻は他の下忍のチームよりだいぶ遅くなってしまった。

 おかげであてがわれたのは、残り物の任務。

「…今回ばかりはナルトと同意見だな」
「…わたしも」

 低い声でつぶやいたサスケに、サクラも頷く。
 本当に忍者の仕事か?誰もが思わずにはいられなかった。

 さる大名家の酒宴。有名な大道芸人を手配していたそうなのだが、他里からやってくる道中に通行止めに遭い、木の葉の里にまで来られないのだという。

「あー…、こないだの春の嵐で道がふさがっちゃったんだねー」
「のんきなこと言ってる場合じゃないってばよー!!」

 ナルトの怒りはおさまる気配がない。
 しかし命令は絶対である。
 引き受けてしまった以上、成功をおさめるしかない。

「うまくいけば気に入られて、ご馳走食べさせてもらえるかもね」

 ぴた、とナルトの地団駄が止む。単純だ。

「サクラなんかかわいーから、大名に見初められちゃって玉の輿かもよー」
「えっ!!  って違うでしょーーー!! わたしはサスケくん一筋なんだからーーー!!!」
「はははははでも一瞬考えただろー」

 ぽかぽかと殴りつけてくる拳を軽くいなしながら、サクラの頭にぽんぽんと手をはずませる。
 怒ってるつもりのようだが、期待しているような顔色は否定できない。

 残るはひとり。

「俺はご馳走も玉の輿も興味ないぞ」
「…だろうね」
「そもそも、大道芸人を見るつもりできた大名達が、こんな付け焼刃の下忍の余興で満足できると思うのか?」

 サスケの意見は至極最もであった。
 それも名の知れた大道芸人である。皆々の期待ははかりしれない。
 
「だったら俺たちが、その大道芸人を迎えに行けば…!」
「彼らが足止めを食らったのは、3日前のことだ。いまから出たら、急いでも2日はかかる」
「…」

 それから元いた里へ引き返し、木の葉の里へ辿り着けない旨を伝達したのだという。
 おかげで当日になり、焦った配下のものが、こちらへ依頼としてよこしてきたというわけだ。

「さ、観念しよーか」





 ことのほか、盛況であった。

 いざとなれば、目くらましのような術でマジックショーを決め込むつもりだった。
 一発目でかましたナルトのハーレムの術がヒットして、呑めや歌えやの大騒ぎ。

 元々調子のいいナルトは、かわいいねえとちやほやされて、まんざらでもない様子で諸大名に擦り寄っている。

「よくやるわね、アイツ…」

 すっかり下働きのような扱いを受けているサクラが、あきれたようにつぶやく。
 くのいちとはいえ、まだ子供の自分が、大名の目に留まる…ということもなく。
 それどころか、全男性陣の視線は、ナルトに集中している!!!

(しゃーんなろー…)

 いっぱしの女のつもりだったが、現実は甘くない。

 まわりを見渡せば、カカシが奥方に絡まれて困り顔をしながらどこかにやついているし、先ほどまでこちらを手伝ってくれていたサスケも、いつのまにやら女中たちに取り囲まれている。

 あらゆる意味で、箸にも棒にも掛からない自分に、女としての自信を失いかけ、思わず盛大なため息をついて、空を仰ぐ。


 ふと、はらはらと、頬に舞い降りてきた花びら。

「…きれいな桜」

 夜の闇のなか、月明かりと焚き火に照らされた桜。
 立派な枝ぶりのそれは、まさに満開である。

「さすが、大名家の邸宅の桜はよく手入れされてて立派だよねー」
「! カカシせんせ、」

 よ!と手を上げるカカシが、サクラのすぐうしろに立っていた。
 でも、と振り向けば、お囃子が持っていたはずの鼓にしなだれかかっている奥方の姿。

「ん? 幻術かけてきたよ」
「…」

 仮にも大名の奥方を…と言いたげにサクラはじとりと見つめるが、カカシは気にしない。
 それでも最初はお酌をして相手をしていたそうなのだが、面倒になって逃げてきたという。
 だって、とカカシは続ける。

「かわいー女の子と夜桜眺めるほうがたのしそーだなーって」

 行こう、と差し出された手を迷いなくとる。
 かわいいといわれたことで浮ついているわけではない。決して。

 でも、たとえサボる口実だったとしても、奥方よりナルトより、自分を気にかけてくれた上忍の優しい笑顔がたまらなく嬉しくて、顔が綻ぶのを止めることはできなかった。
(20140325)