なんのとりえもない、子供だった。
いくら豊富な知識や抜群のチャクラコントロールを褒められようと、実践において必要な能力が圧倒的に欠けていることは身に沁みてわかっていた。
いっぱしの忍びのつもりで、いつだって誰かの背中を見ていた。いつだって誰かが、助けてくれていた。
だから。
「弟子にしてください!」
いつだってどこか受身だった自分が、自分で決めて、踏み出した一歩。
だと思っていたのに。
「『カカシから聞いている−』ですって!」
久しぶりの休みと、甘味処のあんみつ割引キャンペーンがかち合い、それはもう行くしかないでしょうと合意した、いのとふたりで。
ここのところいろいろあって、ゆっくり誰かと面と向かって会話することもなかったように思う。
「ちょっとアンタ、久しぶりの休みでいきなりそれ持ち出すわけ?」
「だって! …なんだか悔しくって」
楽しい気分が萎えるわよ!とご立腹のいのを意に介さず。こぼれ出した想いは留まることを知らない。
自分で決めたことだと思っていた。事実、そうだった。誰にも相談せず、あの日火影の執務室の扉を叩いた。 だからこそ、綱手に告げられたとき、面食らった。
「結局わたしはいつでも、カカシ先生の手の中から巣立てずにいるんだわ」
いつの間に、カカシは告げたのだろう。自分のことを。
すべて見透かされていたのか。
不甲斐なさ、劣等感、そして進むべき道すら。
「でもそれって、嬉しくない?」
いのの言葉にえ、と顔を上げる。
むしろとても恥ずかしいと思っていた。自分に対して、不信を抱いていることを、カカシに見抜かれていたようで。
「アンタのこと、そばで見守って、わかっててくれたってことでしょ。カカシ先生が」
いつだって誰かに守られてきたけれど、そのなかでも圧倒的に安心する背中を思い出す。
ああそうだ、いつだってあのひとは。
ナルトやサスケにばかり、と思う気持ちがないと言ったらうそになる。
それでも、やはり自分のことも、そばで見ていてくれていたんだ。
だからこそ、進むべき道も、見えたのだろうか。
「…カカシ先生にも、もっといろいろ教えてもらいたかったな」
彼も考えあぐねていたのかもしれない。なんのとりえもないくのいちを。
彼がナルトやサスケに与えたものは、おそらく自分には持て余す力だ。
「そんな先生なんだから、アンタの能力を見越して、綱手様に進言してたんじゃないの?」
カカシの元で育てるよりも、遥かにサクラの力を活かせる環境で。
「…そうかも」
やはり、結局はカカシの手の中からまだ巣立っていないのだ。綱手に師事している今でさえ。
それでもなんだか、先ほどとは少し違う心持ちで、それを感じていた。
視線を落とす。久しぶりのあんみつはどれほどおいしいだろうと思っていたが、なんとなく口に運んでいるだけで、実はまったく味わえていなかった。
ただ単に、気の置けない友人に、胸のうちを吐き出せさえすれば、それでよかった。
そんなことを言ったらたぶん怒られるだろうが、鋭いこの女ならば、とっくに見抜かれているだろう。
それこそ、どこぞの先生のように。自分以上に、自分のことをよくわかってくれている。
自分ももっと、わかりたいと思う。誰にも己を赦そうとしない、彼を。
「それにね、今度はアンタが、立派な医療忍者になって、カカシ先生を助けるのよ」
あのカカシですら持ち得ない力を得て。
なんだかうまいこと乗せられた気もする。したり顔でスプーンを咥えるいのには、やはりすべてお見通しなのだ。結局のところ。
だから悔しいから、返事の代わりに不敵な笑みを投げつけてやる。
また、守ってもらうこともあるかもしれない。背中を見せることは、できないかもしれない。
でもそのかわりに、自分にしかできない力で、返すのだ。
人を救うための、この力で。
(20140218)