※あんまり曲の内容に沿っていません。雰囲気小話です。ファンの方ごめんなさい…!!





【月夜の散歩】 /ドへたれカカシ先生


 とっぷりと暮れた帰り道。
 暗いから送るよ、と言い訳めいた誘い文句に、もう少しだけでも一緒にいたい下心を託す。

「先生、遠回りして帰ろ」

 別に先生は遅くなってもひとりで帰れるもんね?
 答えの代わりにくすくすと笑いながらそう提案してくるきみには、もしかして気づかれているのだろうか。

 湿気を含んだ風が頬を撫でていく。
 その生ぬるさに、夏が近づいてきたことを感じながら、子どものわがままを赦す保護者のような口ぶりでしょうがないね、と頷く。


 いつもは通らない土手道を、わざわざゆっくりと歩く。
 君が紡ぐ他愛のない話に耳を傾けながら。

 川面が反射する、家々の生活の灯り。
 向こうには、そうしてしっかりと現実の世界が立ち並んでいるのに、月明かりに照らされころころと笑う横顔を眺めていると、まるで夢を見ているような気分になる。
 
 本当に子どものように少し大げさに前後に振るその手を、急にとってみたらきみはどんな顔をするだろう。
 確かめてみたくて、踏みとどまる。
 ポケットに突っ込んでいた手の不自然な動きを悟られないように、口元まで引き上げ引き上げ咳払いしてみたりして。
 この距離を、縮められない。


 夢のなかのふたりを気に掛けるでもなく、夜はどんどんと更けていく。
 このまま、なんのしがらみもない世界へ、紛れてしまえればいいのに。

「ねえ、カカシ先生」

 きみと一緒に間違えたいと思う弱い自分を、呼び戻すのはきみの声。

「またごはん誘ってくれる?」

 だから、弱い自分はまだ、どうしても諦めきれないでいる。
 
(ずるくてごめんね)

 言い訳で固められた自分の虚勢を、まっすぐで強いきみが切り崩してくれるのを。







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【人生の午後に】 /不安なサクラちゃん


 生きていればつらいことやくるしいことばかりだ。
 であればわずかなたのしいことうれしいことを諦めるかわりに、それらを全部かわしてしまおう。
 すべてを諦めれば、すべてをそれなりにやりすごせる。

 器用そうでいて不器用なそのひとは、そんな生き方をしながらも、いつだってわたしたちには希望を見せてきた。
 つらいこと、くるしいことを乗り越えられたのは、彼の言葉や行動で示された道を信じてきたから。
 というより、彼を、信じていたから。
 少なくとも、わたしにとっては、彼は希望の存在だった。

 それなのに、当の本人は自分のことだけはまるきり色褪せて見えるようで、
 かつて憧れた期待や夢を、彼は一体いつから抱くのをやめてしまったのか。
 あるいは、最初から何も持たなかったのか。

 いや、それはない。
 手を、伸ばそうとしているのを、知っている。

 手を伸ばしかけて、やめる。そのくりかえし。
 諦めたふりをして、やっぱりどこかで諦めきれないんだろうな。
 それでもこれまでは全部蓋をして、手離してきたのだろう。
 傷付かないために。

 もしかしたらわたしの思い上がりかもしれない?
 それは教え子だったり部下だったりを相手にする態度だとしても、他の誰かより、こころを赦せる拠り所として求められているようで、嬉しかった。
 学びの場でも任務でもない時間を共有する特別な席に、わたしがいること。
 わたしだけが、いるということ。

 たぶん、わたしが考えている以上に、彼にはもっと複雑な事情やしがらみがあるのだとは思う。
 そう簡単にはいかないであろうことも。

 ねえだめなのかな。
 わたしから手を伸ばさないと。
 それでもやっぱり、あなたにその手を伸ばしてつかんで欲しくて。
 とのときが来るのを、もうすこし待ちたくて。

(ずるくてごめんね)

 だからお願い。わたしのことは、諦めないで。







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【それを愛と呼ぶとしよう】 /第三者いのちゃん



 そばにいてほしい、より、そばにいたい。
 隣にいてほしい、より、隣を歩きたい。
 当たり前の毎日を、1日1日、大切に積み重ねたい。

 いつまでも。

 ねえねえ!
 掛け値なしでただ寄り添いたいとおもうその気持ちって、愛、なんじゃないの!?






 その場面に、居合わせたのは本当にたまたまだった。
 それも、たまたま出口付近で出くわしたカカシ先生と、それを目撃したのは、本当に偶然だった。

 親友の担当上忍であり上司、という印象しかなかったこのひとと、顔を合わせればたわいもない世間話なんかをするようになったのは、最近のこと。
 自分の恩師の弔い合戦を率いてくれたから…などと言ってしまえば身も蓋も無いが、実際そうだ。
 いつだってどこか冷めた目で傍観しているような印象しかなかった彼の胸のうちに、自分たちと同じ炎が宿っていたことを感じて。
 きっと本来であれば諌めなければならない立場だったろうに、想いを汲んで、共に戦ってくれたことが純粋に嬉しかった。

 だからこそ、自分の大切な親友の思慕が、このひとに向けられていると気づいたときには、少しの驚きはあったものの、案外似合いのカップルになるかもしれない、と思えた。
 少し怒りっぽくてわがままな、でも誰よりも優しい彼女には、普段はのんびりとして少しだらしなくても、必要なときには冷静に腕を引いてくれて、それでいて想いを尊重させてくれる寛容さを持ち合わせたこのひとと、歩む姿がすんなりイメージできた。
 決してはっきりとは言わないけれど、顔を合わせるたびに「カカシ先生が、」と話す回数が増えていることに、きっと彼女自身気づいていない。


 目撃したのは、そんな彼女が、親しげに男と連れ立って歩く姿。
 おそらくそれは仕事仲間とか、その程度の間柄だったと思うし、一途な彼女が脇目を振ることも到底考えられなかったけれど、共に居合わせたのがカカシ先生であったことで、思ったよりも動揺してしまった。
 ふと、自分と同じように押し黙ったカカシ先生を見上げれば、無表情でふたりが去って行った方向を見つめていた。

「カカシ先生、余裕ねー」

 なにが、と切り返されたのは、ずいぶんたっぷりと間を空けてからだった。
 自分自身少し見とれて?しまっていたからきちんと確認はできなかったけれど、ろくにリアクションもできないくらいにぼうっと見入っていたのは明らかだ。

「サクラ、案外もてるんですよ」
「…そ」
「心配じゃないんですか?」
「うん、悪い虫、つかないといいね」

 優しい子だから、と続けてはいたが、笑ってはいなかった。
 思ったより、彼女の気持ちは一方通行ではないかもしれない??
 普段なら、余計なおせっかいはしたくないタチだが、彼女のことならば、別だ。
 彼女に伝えるかどうかは別として、ただ純粋に知りたいと思って。

「ねえカカシ先生、先生にとってのサクラって、どんな存在?」
「どうしたの急に」
「んー、なんとなく? ほら、第7班ていろいろあったし、わたしたちとはまた違う、お互いの関係があるんじゃないですか?」

 んー、と頬をかきながら、困った表情を浮かべる。
 やや強引かもしれないが、別にかまわなかった。なんだったら、質問の意図を悟られてもかまわないくらいなのだから。

「サクラは、大切な教え子で、部下だよ。子どものころから毎日成長を見守ってきたし、これからも見守ってやりたいと思ってる。
 でも、もう、あいつに俺が教えてやれることなんて、ないだろうし…、だからそろそろ、離れるべきとは思ってるけど、やっぱり7班は唯一の教え子だし…、気にはなる、よ」

 真摯な態度で聞いていたものの、予想どおりというかあまりにも無難すぎる回答に、思わず漏れ出たため息を隠しきれなかった。
 きっと、それはそれも間違いじゃない。だがどれも、本音をすっぽりと先生や上司という盾で覆っていた。

「カカシ先生、回答が優等生過ぎます。おもしろくない」
「え、なにそれ」
「どうかしらね、別に、忍びとしてだけじゃないでしょ。カカシ先生がサクラに教えたり与えたりできることって」
「…俺が? サクラに?」

 というか、たぶん、わかってますよね。
 重ね重ね、余計なおせっかいはしたくないタチ、なんですが。

「大切だからって踏み込まないでいると、いつか本当に離れて行っちゃいますよ?」

 のんびりと眠たそうな目が、ほんの少しだけ見開いた、気がした。


(ねえ、迎えに行って、未来を)




(20140614/夢のカカサクエアオンリー提出用)