「よー、派手にやってたな」

 サクラが綱手に資料を提出しに行くというので、その間廊下で待つことにしたカカシに、通りすがりのゲンマが気安く声をかけてきた。

「随分と仲良いみてーだな」

 くい、と顎で示した先は、火影執務室の重厚な扉。いくらゲンマとて仲良しだなどと軽口を叩ける相手はもちろん火影様ではないだろうから、ついさきほど「待っててね!」と息巻いて執務室へ入っていったサクラに向けられたものに違いなかった。
 どうやら先ほどの悶着を一部始終見られていたらしい。この調子ではこれからも冷やかしは続きそうだ…と頭を抱えながら、彼の期待している答えとは違う、正解を返す。

「甘えてるんだよ、俺に」

 先生だし、ほかの班員みんないなくなっちゃったし。
 子どもらしく安心して弱さを見せられる相手がいないだろ?

 おそらくそれはきっと本当のことだ。
 しかし暗に『それだけだ』という意味合いを強調させすぎてしまったかもしれない。

 向けられた、ふうん?と含みを持たせた笑いかたもきっとそのせいだ。気になって、なんだよ、と睨み付ける。

「わかってないならいいけど」
「だからなにが」

 わかってるくせに!そう捨て台詞を吐いて背を向けたゲンマを見送っていると、背後から扉越しに失礼します、と朗らかな声が聞こえてきた。どうやらお遣いは終わったらしい。
 がちゃりと音を立てて開いた扉から現れるのが誰かなんてわかりきっているのに、なんだか身構えてしまう。緊張とか興奮とか、そんな血気盛んな類ではないけれど。

 ああ、わかってるよ。じゅうぶん。とりあえず、自分の心の内くらいは!

「先生、お待たせー!」

 この笑顔が、俺じゃなくて俺のおごるクリームぜんざいに向けられていると思うと、少しむっとするくらいには?