今日は午前中は晴れ間が広がりますが、徐々に雲が増え、ところにより雨から雪へ変わるでしょう


 遅く起きた朝。ほとんど昼に近い時刻。
 トーストをかじりながら、天気予報を聞き流す。
 雪、てことは、寒くなるのかぁ。くらいに。

 自活をはじめて、それほど不便に思うことは今のところないのに、なぜか寒い夜に言いようのないさみしさを覚えることだけは、どうしようもなかった。

(彼氏でもいればなー)

 思い浮かんで、あまりに打算的な思惑に自分の事ながらがっかりする。
 あたためあうだけの彼氏なんて、いたってむなしいだけのくせに。

 本当は、誰のぬくもりが欲しいかなんて、わかっている。

 あまりにもあわただしく過ごしていたせいで日付の感覚がなくなっていたが、どうやら今日は大晦日らしい。
 休みなく働きづめだったのが綱手にばれて、今日から三が日まで無理やり休みにされてしまった。

 仕方なく大掃除でも、とも思ったが、引っ越してきたばかりでまだ片付けるほどの荷物もない。
 簡単に掃除だけして、早々に実家にでも帰ろうか。ひとりでいるよりは、ましだ。

 よし、と立ち上がり食器を流しに片付けると、食器洗い用の洗剤がなくなっていることを思い出した。
 しかもそうだ、昨日の仕事帰りに買って帰ろうと思っていたのに、今日が急遽休みになったために、今日にまわそうとしていた仕事を無理やり終わらせて、遅くなってしまい、営業時間に間に合わなかったのだ。

 結局、あらゆることが裏目に出てしまっている。
 はぁーとため息をつくと、財布だけを握り締めて、家を出た。



「…寒い」

 思わず言葉にしてしまうほど、冷え込んでいた。やはり雪は降りそうだ。
 午前中は晴天と言っていたが、すでにちらほらと厚い雲が見える。

 家を出てから、あぁほかに買い忘れはなかったかな、と急に不安になる。が、もう戻る気もしない。
 記憶を頼りに、取り急ぎ必要な食器洗い洗剤と、あとせっかくだから洗濯洗剤と…とぶつぶつ言いながら指折り数えていると、「わ!」という声となにかにぶつかった軽い衝撃が同時にやってきた。

「ご、めんなさ…あれ、カカシ先生」
「あれ、じゃないよー。前方不注意だなー」

 こら、と言っているが全然説得力のない優しい微笑み。思わずつられて笑い返す。

「こんな時間にどうしたの? 寝坊?」
「ちょっとー、先生と一緒にしないでよねー。急にお休みもらったの。それで、買出し」
「買出し?」
「そー。洗剤とか洗剤とか洗剤とか。重たいのばっかり」

 にっこり。と笑えば、明らかに困った顔でにっこり、返される。
 もちろん、持てない量ではない。
 でも、聞いたあたなが悪いのだ。

「あー…、ん。がんばれ…?」

 ドス!!と拳がカカシのみぞおちにヒットする。
 鈍い音。
 答えを間違えたのだから、仕方がない。

「お、お付き合い、させて、いただきます…」

 唸るような声だったけれど、ありがとうございます!ととびきりの笑顔を返してあげた。
 朝、思わず思い浮かんだ人と会えたのだ。偶然でも。
 そう簡単に、離してなるものか。







「サクラってばずいぶん乱暴なナンパのしかただよねー」
「あら、ナンパなんてカカシ先生にしかしないわよ。あ、あとね、柔軟剤も」

 次々カゴに放り込まれる洗剤は、わざと重たいものばかり選んでるのでは?と思うようなものばかりだった。
 なんだか気になることを言われたような気もするが、気のせいだと思うことにした。

 売り場を見渡せば、つい先日までクリスマスムードだったというのに、日用品の売り場ではすっかり正月支度の商品に入れ替えられている。
 あまり日付を意識しない暮らしをしているせいで、たまにこういう時季モノを見ては、季節の移ろいの早さに驚いてしまう。

 などと感嘆していると、思い出したようにサクラがカカシを振り返る。

「…そういえば先生、今日仕事は?」
「あのね、ここまで付き合わせといて今更聞くわけ?」
「だって先生が午前中になにもないのに外を歩いてるなんて…」

 どーゆー認識されてんだ、と思わずがっくりと肩を落とす。
 だがそれも、7班として活動していた頃の実績である。致し方ない。

「朝、呼び出しがあって、その帰りだったの。もう今日はフリーよ」

 興味なさそうに、へー珍しいー、と言いながら日用品を一回りし終えたところで、サクラが買い物カゴをもう一度見直す。
 表情を見るに、漏れはないようだ。

「夜は?」
「んー、紅白でも見ながらこたつで寝ようかなー」
「予定ないなら、年越し蕎麦食べに来る? 付き合ってくれたお礼」

 思わぬお誘いにびっくりしたのが9割。
 あとの1割は、戸惑いと嬉しさ? いや、違うかも…。でもこの感情を他にどう表現したらいいのか、わからない。

「えーこんな男やもめがご相伴に預かっちゃっていいのー?」
「だって、ひとりで年越しなんて、さみしくない?」

 どっち、のはなし?ていうか、年、越すの?いっしょに?きみの部屋で?
 サクラの屈託のない笑顔は、たぶん心からのものであっただろうが、妙な深読みをしてしまって、うんともすんとも言えず言葉に詰まるカカシだった。
(20131231)