気まずくなった様子のサクラが、いそいそと布団を用意してくれる。
 ベッドは奥にあるのだから、自分のためだろう。

「…電気毛布、それ、使ってね。先生」

 これさえあれば、あたたかい。共寝などしなくても。
 そういう意味合いで。
 つめたいふとんを、いいわけにはできない。

 信じられない、何言ってるの!?とか、いつもの調子でぷりぷり怒ってくれれば、笑って終わらせられたのに。
 でも、なんであんなこと言ったのと後悔はしているけど、寝ぼけていたとはいえ、冗談のつもりで言ったわけではないのが、自分でもよくわからなかった。
 期待、していたのだろうか。いいよ、って。言うわけねーだろ、どー考えても。
 ていうか、もし言われたら、逆にどーしたんだ。

 でもだからこそ、あの反応は、どう受け取っていいか、判断がつかない。
 もしかしたら、いつかは?

「聞いてる?」

 思考にはまって、返事を忘れていた。うん、と言いかけて、思ったより翡翠の瞳が近くにあることにたじろぐ。
 無自覚にやっているのだとしたら、あまりにも危険だ。
 男として見られていない?いやそれはない、さきほどの表情を見るに。
 動揺していることを悟られないように、ほんの少し身を引いた。

「…ありがと」
「ううん、無理やり連れ込んじゃったし。ほら、またこたつで寝ちゃダメよ。消しちゃうからね」
「んー…」

 サクラに促されて、あてがわれた布団へもぞもぞと動く。
 
 親御さんのためにか、同期のくのいちでも呼ぶのか、きちんと来客用の布団を用意しているのがなんともサクラらしい。
 今日布団を干した様子はなかったが、それでも陽にあたったようないい匂いがするから不思議だ。
 ひやっとした感触を覚悟したが、一緒に連れ込んだ電気毛布の力もあいまって、ふかふかで気持ちが良かった。

「わたしももう寝るけど、なにかあったら適当に使っていいからね」
「ん、ありがと」

 きっと、病院のせんべい布団を連想したからだ。冷たい予感がしたのは。
 このあたたかさなら、たぶん、すぐ落ちてしまう。

「おやすみなさい、カカシ先生」

 豆電球だけ残して、電気を消したサクラの気配が、遠くなる。
 おやすみ、と聞かせるでもなくつぶやくと、まぶたを下ろす。

 



(…眠れない)

 さきほどこたつでうたた寝してしまったせいか、あるいはその後のひと悶着のせいか。
 眠ろうとすると、目が冴えてしまった。

 女の子の部屋で、寝ている。恋人でもない、元生徒の。
 
 上がったときも、そばを食べているときも、やいやい言いながら紅白を見ているときも、さほど意識しなかたっというのに、急にその事実が襲い掛かる。

 となりの部屋では、サクラが自分のベッドで横になっているだろう。

 一体、なんなんだ…この状況は。
 ぐるぐるとしていた疑問が、再び頭をもたげる。

 どうしようーとりあえず目をつぶろうーと深みにはまっていると、扉の開く音がして、思わず息を止める。
 なにしてんだ一体。

「…先生、まだ起きてるでしょ?」

 ばれてる。
 狸寝入りをする間もなかった。
 正確には、こちらの心の準備が。

「…起きてる」

 観念して目を開けると、すでにサクラは枕元にいて、布団を剥ぎ取られた。

「え、え、え、」

 状況が理解できず横になったまま眺めていると、そのままサクラがカカシのとなりに身体をすべりこませてきた。
 
「…電気毛布、先生に貸しちゃったから。寒いのよ」
「…うん、返そうか?」

 どう善処して解釈しても、言い訳にしか聴こえないサクラの言い分。
 それは、さきほどの自分の発言のように。

 だからたぶん、この回答は大間違いである。
 サクラの軽い肘鉄が、わき腹に入る。でも、痛みはない。

「責任、取りなさいよね。自分の発言には」

 強い口調ではあったが、声が震えているのがわかる。
 少し首を回すと、泣きそうな顔がすぐ近くにある。

「…うん、」

 わからない。一体なんなのか。
 生徒として部下としての、サクラを思い浮かべてしまうと。

 ただ、いま、ひとりの女の子を目の前にしている男としての感情は。
 
「…でも、俺ももう眠れなそうよ」

 どきどきして。
 サクラと同じように。

「そ、そりゃ、これでぐーすか寝られても困るわよ!ちょっとは意識しなさいよもー!むかつく!!」
「し、し、してるしてる、だから、」

 ようやく布団の中で向かい合った。
 こんな近くで、顔を見るのは、はじめてだ。

 普通であれば、理性が…なんていうところだろう。
 意識はしている、確かに。尋常ではなく。
 ただそれが、手をかけたいとか、そういったことに直結してこない。
 本当に。

 ただただ疑問ばかりが、浮かぶ。

「…俺たちって、なんなの…」
「さぁ…」

 お互いにこの気持ちの落としどころを模索している最中なのだ。きっと。
 お互いがお互いを、あまりにも大切に思うからこそ。
(20140125)