うとうとしていた。
 こたつがあったかくて。
 気持ちがいい。
 肩をゆすられているのはわかっていたけど、まどろみから醒めたくなくて無視していた。
 ら、
 バチィーーン!
(…はたかれた…)
 痛いよー…とはたかれた頭をさすりながら、なんとか顔を上げる。
 と、
「先生、おめでと」
 のぞきこむよう見つめてくる翡翠の大きな瞳。
 誕生日ではない。昇進したわけでも。
 だがおめでとうときたらありがとうと相場が決まっている。
 だから素直に返したら、ちがうでしょー!と怒られた。
「新年でしょー!!」
 もー、とぷりぷり怒られて、はじめてああそうか、と納得する。
「…あれ?」
 肩にかけられた毛布。ピンクの電気毛布。自分のものではない。
(…そうだった、)
 そこでようやく思い出す。
 ことの顛末を。
「…どうしよう…、元生徒の家で一夜を明かしてしまった…」
 しくしくしく、と両手を顔で覆って泣きまね。
 するとばっかねー、とすかさず。
「まだ夜は明けてないわよ、年が明けただけ」
「…そーゆー問題じゃないんだよサクラちゃん」
 一体自分たちの関係はなんなんだろう。
 買い物に付き合わされて、済し崩しに年越し蕎麦に招待されて。
 そのままこたつで紅白見て、あまちゃんに興奮するサクラを元気だなーと思ったのが最後の記憶。
 一体何なんだろう…。
「もういっそ朝まで寝かしておいてくれたらよかったのに…。どうせショックを受けるんだったら」
「…だって先生、きっと昼まで寝てるでしょ?」
 抗議めいた半目の視線に耐えかねて、またこたつに突っ伏す。
 いくらでも寝られる。こたつの魔力。
 サクラがかけてくれただろう電気毛布も、すこぶるあたたかい。
「だからね、言いたかったの。明けたらすぐ。あけましておめでとうって」
 一体なんなんだろう。
 同じこたつでいっしょに年を越して、新年の挨拶をするこの関係。
「…ん。おめでとう」
 くすぐったいのだ。なんと言うか。
 久しくこういうことを、していなかったから。
 家庭とは、こういうことなのか?もう、覚えてもいない。
「先生といっしょに年越しできたから、さみしくなかったよ」
「…俺、寝てたけど」
「でも、一緒にいてくれたもの」
 ありがとう、と。
 見てないけどわかる。きっと笑顔で。
 サクラの顔を見れない。恥ずかしくて。
「起こしてごめんね、布団敷くから、ちゃんと寝て。風邪引いちゃう」
「んー、大丈夫。こたつあったかいから…」
 なにより、このぬくまった身体で、つめたい布団に入る気がしなかった。
 そんな気持ちからだ。
 決して、他意はない。
「…それか、一緒に寝る?そうすればあったかいかも」
 寝ぼけていたからだ、こんなうわ言は。
 家庭を連想させるようなことを、サクラが言うからだ。
 だから急に、ひとりがさみしくなった。
 しかし、言ってから、激しく後悔した。
 先ほど自分で言ったばかりではないか、元生徒の家で、一晩…。
 なにより、サクラが無反応であることに、急に恐ろしくなった。
(ひ、引かれた…絶対…)
 おそるおそる、顔を上げる。
 すると、なんとも読みづらい表情で、とにかく顔を真っ赤にして、こちらを見ていた。
 これまで見たこともない、女の顔で。
「…だめ。どきどきして、絶対眠れない」
 …本当に一体なんなんだろう…。
 自分が彼女に抱いている、この感情は。
(20140101/happy new year!!)