「カカシせんせー!俺たち二次試験通ったってばよ!」
「よーしよーし、えらいえらい」

 通過者たちがホールに集められるちょっとした隙に、ナルトが目ざとく担当上忍の姿を見つけ、駆け寄った。
 カカシはのんびりとした笑顔でそれを迎えると、がしがしとナルトの頭を遠慮なく撫で回す。

 しかしすぐにあれ、と気付く。いつもならナルトに続いてサクラが「しょうがないわねー」とお姉さん風を吹かせながら、それでもどことなく構って欲しそうに近寄ってくるのに。それを受けた最後のサスケも、仕方なくといった様子で2人に続いてくる。それがいつものスタイルだ。
 まさかサスケが率先してやってくるはずはない。つまり、続いてこないということは、2人目が動き出さないからである。
 
 そこでようやく視線を走らせると、少し離れたところからこちらを見ていたサクラと目が合う。
 サクラはぎこちなく笑って見せると、すぐにうつむいてしまった。

(…そういうことね)


「あのさ、あのさ、カカシ先生!」
「ん?」

 カカシの視線が何をとらえているのか気付いたのか、ナルトがくいくいとカカシのベストを引っ張ってくる。
 どう切り出せばいいのかと珍しく思案顔のナルトに、カカシはにこりと笑いかける。

「あのふたりも褒めてやらなくっちゃな」

 そう言って、もう一度頭を撫でてやると、ナルトの表情はみるみるうちに明るくなった。




「よー、おまえらおつかれさーん」

 ナルトを右腕にぶら下げたまま、カカシはいつもの呑気な様子で、片腕を上げながらサクラとサスケの元へやってきた。
 普段は何事にも無関心なのだと認識していたサスケだったが、こうしてサクラの傍を離れようとしないあたり、やはり気を使っているのだろうとうかがい知れて、なんだか嬉しくも思う。あるいは第二次試験の最中に、この3人を強く結びつけるような、何かのきっかけがあったのだろうか。

(そのきっかけが、もしかしたらこの髪?)


 サクラは相変わらず気まずそうだった。カカシがそっとそのうつむいたままの頭に手を伸ばすと、ゆっくりと顔を上げる。目が合う。


「サクラ」

 ナルトを引き剥がしつつ、サクラの目線までかがむと、何か言いづらそうに口をもごもごさせている。

「…先生」
「ん。がんばったな。えらーいぞ」

 ぎこちなかった笑顔は、あっという間に明るいものへと変わってしまった。
 傍目で見ていたナルトも、つられて笑顔になる。
 2次試験の間ずっと見ることの出来なかった、サクラの心からの笑顔をようやく見れた気がした。

 試験にとある不安因子が紛れ込んでいることは、カカシの耳にも入っていた。ひょっとしたらそれに関する結果なのだろうか。
 サクラの頭から手を離す間際。すっかり短くなってしまった桃色の髪をひと房、名残惜しげに掴む。
 美しかった髪を失ったのは悲しいが、だが髪だけで済んだのだからよかったのかもしれない。もともと快活なサクラには、短い髪もよく似合っている。

「先生、」
「ん?」

 ぼんやり髪に見とれていると、サクラの小さな手がカカシのベストをくいくいと引っ張る。
 ちらりと視線をはずしたサクラがどこを見ているのかと追ってみれば、相変わらず無関心を装うそぶりの少年。
 なんだかんだでそれぞれが互いに思いやれている、いいチームだ。


「サスケ」
「…俺はいい」
「またまたー」

 あわよくば逃げ出そうとするサスケの頭を無理やりとらえると、一番激しくグシャグシャと撫でた。

「よーしよーし」
「…っおい、」
「ウフフ。いーじゃなーいの。えらいえらい」

 抵抗をやめ、おとなしく頬を染めるサスケに、カカシはこみ上げる笑みを抑えようとは思わなかった。
 下忍の担当になるのは初めてだったが、子供たちの成長がここまで嬉しいものだとは思わなかった。

「みんなよくできましたー」

 まだ試験が終わったわけではなかったけれど。
 やはりこの3人を推薦したことは正解だったなと、カカシは満足げに笑う。


 各班の生徒たちが、徐々に整列を始める。
 そろそろ行かなきゃなとカカシも3人の背中をとんと押し促すと、頼もしい背中を向けて去っていく。

「先生」

 少年たち2人を追って駆け出したサクラが、くるりと振り返る。

「ん?」
「ありがと!」

 駆け出してゆく背中を見つめるカカシの目は、いつになく優しかった。



(20060915up)


(おまけー)
「カカシ先生ってば、あれじゃ女にモテないってばよ」
「は? いきなり何言ってんの?」
「サクラちゃんのイメチェンに気付かないなんて!女の変化に鈍感な男は嫌われるって、こたへてチョーダイで言ってたもんね〜」
 ナルトの良さは、きっとその純粋さにあるのだろうけれど。
 だけれどあまりにもそれをそれとしてしか受け取らないナルトを見ていると、なんだかサクラは不安になる。
「(ウスラトンカチ…)」

いや、実際7班の子供たちで、実は精神年齢が一番高いのはナルトな気がするんだけどね。
だけど、こう、隠れた優しさ的なものだと、わかるんだけど、優しくされ慣れてないから不安なんだというか。