「あぁー、アイドルってのも楽じゃないのよねー」
 とても久しぶりに3忍が揃い、賑やかになったおぼ研にて、ひときわ目立つ七海のぼやき。
「ハハ、どうした?七海。演ドル時代はアイドルになりたいアイドルになりたいってわめいてたくせに」
 最初に反応した吼太が、料理をしていた手を止めて、七海の寝そべるソファにやって来た。
 いい匂いがする。今日は吼太の作るおいしいカレーがいただける。
「だってぇ〜…、アイドルって言ったらさ、やっぱり『おはよう娘』だとか『ミチティー』だとか、あーゆーキラキラした感じだって思うからさぁ〜…なんかもう、やってること演ドル時代と変わらなぁい〜!」
「おっまえ、そんな簡単にミチティーに並べると思うなっ!」
 唐突に会話に参加するなり興奮状態の鷹介に、思わず七海は立ち上がって反論する。
「なによ鷹介!あたしがブラウン管の向こうでキラキラしてるとこ見たくないの!?」
「七海、七海」
「なによコータ、」
「鷹介、最近ミチティーの追っかけまがいのことやってるらしい」
「え」
「変に突っ込んで爆発されても困るから、ここはひとつ、穏便に」
「…はぁい」
 とは言っても。やはり七海の不満が解消されるアテもなく。
 これだったらいっそ、演ドルのままでいたなら、変な希望を持つことも無く街頭でしんしんと歌いながら納得していたのではないかと、また色々思い巡らせとても不似合いなため息をこぼす。
 ふと横目に、鷹介がしっかり手で握ってニヤニヤしているミチティー生写真が目に入ったものだからもう気分も悪い。
 唯一の心の救いは、台所に戻った吼太のお手製カレー。いつもなにかあると吼太は腕によりをかけおいしいカレーを振舞ってくれてたっけ。これはハリケンジャーになる前からごくたまにだけれどあった、3忍の中の風習。
「あたしもキラキラしたぁい…、」
 七海がぽつりこぼしたつぶやきの最後のほうは、久しぶりに聴いた爆音でかき消された。

「失礼する」
「「一甲、一鍬!」」
 思わず鷹介と七海の声がハモった。戦いを終えてからと言うもの、久しく顔を合わせていなかったふたりだ。
 鷹介と七海の声につられて、吼太も再び台所から顔を出した。
「どうしたんだふたりとも。…あんまり嬉しくない報告とかじゃないよね?」
「いいや心配するな。我らもそうそう悪い知らせは持って来ない」
「ちょーどいいじゃん!今日は吼太のカレーなんだぜっ!ふたりも食ってけよ!どーせヒマなんだろ?」
「んぐ…、失礼な!」
 やんややんやと盛り上がる3人の会話などまったく聞く耳持たずの弟は、目ざとくソファに寝そべる七海を見つけた。
「…七海、具合でも悪いのか?」
「え?ううん?そんなことないよ?」
「だが…、」
「ああ、一鍬、こいつキラキラしたいんだって」
「…きらきら?」
「鷹介っ!うーるーさーいーなー」
 何のことやらわからない、と言ったふうの一鍬に、吼太が七海には聞こえないような小さな声で通訳を入れる。
「ほら、七海、アイドルに転向しただろ? ほんとはもっとメディアに出てみんなの注目を浴びたいのに、実際やってる仕事といえば演ドルと変わらない営業とかだろ?だからなんだか疲れたらしくて」
「…めでぃあ?」
「吼太!余計なこと言わないの!」
「はぁい…、」
「一鍬、何も気にしなくて平気だからね、あたし、ほら、こんな元気!」
 吼太の解説もいまいち理解しきれているわけではなかったが、しかし要は、とりあえず七海は仕事に疲れて元気がないらしい。
(それなのにこうして、自分に心配をかけまいとしてにっこりピカピカ可愛い笑顔を惜しげもなく向けてくれる健気な七海…あぁ愛しい)
 一鍬が妙な思い込みをしているとは知らず、外野がさらに追い討ちをかける。
「まぁでも、アイドルなんて世間様に愛想振りまく仕事、ぶきっちょな七海にできっこねーよな!」
「…鷹介?」
「それにおまえ、ミチティーのキラキラはミチティーだからあるんだぞ!おまえなんかがあんなにキラキラ輝けるわけはないっ!」
「言ったわねぇー!!トータスハン…、」
「わー、わー、わー、落ち着け七海っ、ここはおぼ研だぞー!」
(輝き…、アイドルは輝く…そうか、もしかして七海は…。
 いやしかしそれは違うぞ、お前は、お前は…、)
「七海…、お前はじゅうぶん輝いている。俺の心はお前の輝きでこんなにも満ち満ちている」
「…いや、あの…」
「辛いのなら、いつまでも俺だけのアイドルでいてくれないか!!」
 それはとても大真面目な一鍬なりの優しさだったのだろうとは誰もが思ったが、あまりにも大胆な愛の告白ともとれるそれに、リアクションに困る七海以外の皆が笑いを堪えるのに必死だったことは言うまでもない。




(2003/07/27 up)
久々に文章を書いた上に、久々の鍬七…。ねぇ!どうなの、って感じですが(知るかい!)。
ちょっと最近久々に同盟さんのほうの作品、何点か拝見させていただきひっそりと萌えに走ったりしていたのですが、結構「アイドルになって成功してる七海」はいれども低迷中…ってのは見たことが無かったので。
だけど設定先行だったせいでネタがなにひとーつ決まっておらずこんなハメに。わはは。一鍬ごめんよ。
あ、いや、もちろん七海さんはもうこれから爆発的ヒットですけど(な、奈央ちゃんもぉー…)。
今後はどうせだから、スペイン語会話とかに絡めたことも書きたいよねぇ。奈央ちゃんの出した歌の歌詞も知りたい…(歌は聴く勇気がな…あっ、いやいや)。
て言うか書いてる間も探り探りなんでロクなことはいえないけれども、3忍萌えー…。
鍬七とかどうでもいいんで3忍でもごもごした感じのアレ書きたい…もごもごって何?
ちなみに、おはよう娘とミチティーに関しては触れないでくださ…ああっ、深夜2:50なんですっ。悪気はないんですぅ〜。