「おれたちはきみの家来じゃない!」
「もういい、おまえクビ!他捜す!」」
振り向きもしないでおぼ研を後にするライーナの背中を、まだ怒りもおさまらないといった様子で鷹介は眺めていた。
「あーあー、怒らせちゃった。良かったのよーすけー?」
オヒメサマだったんだよーというダメ押しには一切目にくれず、反論もせず、ただ黙ってライーナの去った後を見つめ続ける鷹介に、七海がふくれていたに気づいたものは誰もいなかった。
「ざーんねーんだったねー、随分アッサリと帰っちゃったじゃない」
みるみるうちに小さくなってゆく宇宙船を見上げながら、(珍しく)感傷に浸っている鷹介の頬を人差し指でつつきつつ、どことなくうれしそうに七海が絡みはじめた。
使命や宿命から逃げない。そう強く言い残して、ライーナはナックルとともに星へ帰って行った。
「まあな。…でも、またいつでも会えるさ。だって俺たちは出会えたんだ」
鷹介がライーナに対し、一度も手を振ったり、さよならの言葉を告げることはなかった。いつもやかましいくらい騒がしい彼にしては珍しいなぁと思っていただけに、その様子をひどく不自然に思ってはいたが、それでもそこまで気にはしなかった。
しかしなんだ、この空を眺める鷹介の視線といえば。やさしくそして大人びた瞳。少なくとも七海の知る限りこんな表情を見たことはないし、ましてや自分をこんなふうに見つめたことなど一度ともない。
呑気に構えていた七海だったが、その表情はそこで一変する。
一体どれくらい自分と鷹介が同じ時間を過ごしてきたのか。
相手は出会ってわずかしか経っていない姫。鷹介にここまでの表情を向けさせるほどの、何があるというのだ!
「…あんたまさか、結婚してあげるーなんて言葉、本気にしてたわけ?」
「ば、かなこと言うなよ! そんなわけねーだろ!」
「そうよね〜、あんなワガママ姫、アンタの手には負えないわ」
その言葉に、それまで七海のほうを向こうともしなかった鷹介が、勢いよく振り返った。
「おい! ライーナのこと悪く言うなよ!」
「なっによ!ちょっとカワイイからって!鼻の下伸ばして!」
「ちょっとじゃねえ!おまえに比べりゃ100倍マシだった!」
な、な、な…と肩を震わせて怒りをあらわにする七海に、吼太と一甲はオロオロする。
鷹介と七海は鼻先をこすり合わせそうなほどの距離でにらみ合い、一触即発状態である。
「な、七海、俺はあの姫よりもおまえのほうがずっと…」
遠慮がちに会話に入ろうと試みた一鍬だったが、その勇気は当の七海の絶叫によって、もろくも砕かれる。
「ばかばかばかばかばか鷹介ーーーーー!!!」
「なんだよ、七海の奴…」
「な、七海〜!」
キィー!と奇声を発しながら走り去る七海を鷹介は戸惑いながら見送り、一鍬は慌ててその後を追う。
一甲はそんな弟の姿に心底不安だといわんばかりの大げさなため息をこぼしていたし、とにかくその場の誰も、七海をたしなめようがないことは、本能的にわかっていた。
「勝手にしてくれ…。もう俺は知らない…」
吼太のつぶやきは誰の耳に届くこともなく、せつなく消えてゆくだけだった。
(061009)
マシ、という表現は、わたしなりの七海ちゃんに対する惚れた弱みです(w
タイトルはもちろんDQの引用ですが、絶対スクエニの誰かはハリケンファンに違いないとしか思えぬタイトルですよね。