(フフン、なーんて寂しいクリスマスなのかしら!)



 朝起きてごはんを食べて、通りすがったフラれたばかりの兄に「クリスマスおめでとう!」と言ったらなぜか殴られて、
もう親は何もくれないし、弟は彼女とラブいし、傷心の癒えるものは何もなく。


 いい、もう。
 今日は一日パジャマから着替えることもなくダラダラ過ごすわ…!!








(だってしょうがないんだもんね。あたしだって努力すれば大丈夫だったわけで。
それなのに変なプライド持っちゃって電話しなかっただけなんだ。自業自得だ!だから寂しくない!
むしろ本来なら受験生なんだ。彼氏といちゃこいてる場合じゃないんだ。
ああ、どのみちプレゼントもなんもないしかえって会えなくて正解かな…。
今年は家族でホールケーキでもつっつこう。寒く)


 結局、あれから一度も着信はなかった。
 こっちからもしなかった、してやらなかった。
 今日の結果は、ただそれだけのこと。



 勿論遊び相手もつかまらず今年はクリスマスなんて無視してダラダラ過ごすかと兄を冷やかしにいくと、バイトがあるからとアッサリ切られ、朝からなぜかいない母親は昼になっても帰ってこないから、結局ひとりでカップラーメンを食べて過ごして、虚しくなったからビデオでも見ようと近くのレンタルビデオ屋までチャリをこいだ。

 それが失敗。


 バカな男女が、(きっと)ふたりで今夜見るのであろう、とにかくラブな映画を吟味している様をこの棚でもあの棚でもその棚でも見かけた。
 別に映画を見て過ごすことに憤りは感じないのだが、何に腹が立つって。そんなカップルの中でひとりだけぽつんとホラー映画の前をウロウロしてる自分。

 ああ寒い、寒すぎる…!


 かといってアメリなんて見る気にもなれない。
 あのバカップル、きっといちごショートに乗っかってるいちご指にぶっさして喜ぶんだよ、今夜。滅びろ、滅びてしまえ!


 結局何も借りずに、店員さんの哀れむような視線を感じながら店を出た。…悔しい…!!




 家に帰ってもどうせ誰もいない。テレビはやたらクリスマス特集だから見たくもない。…寝るか。もうそれしかないのか。







 ブーン・ブーン・ブーン…


 ああ、バイブのままだった、とろとろした意識で携帯を取ると、表示を見て「どうしよう」、と真っ先につぶやいた。


 なんか今更って言う気もするなぁ。
 でもなぁヒマだしなぁ。
 …ん。





「クリスマスおめでとう」
「なに、それ」
 まぬけな言葉に思わず奈瀬は呆れた。電話越しに、少し困ったように笑う声がかすかに聞こえた。

「んー、何言っていいかわかんなかったから!つうかさ、オマエ今日1日何してたの?何回も電話したんだけど」
「え、知らない。…あ、そうだ。外出てたとき携帯持ってなかったわ」
「うっわ、携帯電話とか言って携帯しなきゃ意味ねーじゃんよ…」
「そういえば、なんなの? 用件」
「…もうすっかり遅いんですけど、実は俺24日こと昨日、仕事休みになって…」
「え、」
「だからどーせオマエも暇してるだろうと思ったからわざわざ、わざわざこうして家の前にまで迎えに来てやってだな…」
「は、今なんつった?」
「カーテン開けてみ」

 疑問に思いながらも、言われたとおりに部屋のカーテンを開けると、なんとそこから見えたのは、家の前で携帯片手に手を振る電話の主。

「…あらら」
「まぁでも休みは昨日の話なんだ。だから俺、帰る」
「ああ、そうなの。お疲れ様」
「…あのさー、もっと、ないの?待ってよ、とかそう言う言葉」
「そんなこと言ったって家には上げられません」
「ああもういいよ!俺、明日も休みとったんです!風邪ひいたっつって、冴木さん騙して仕事押し付けたんです!」
「(可愛そう冴木さん…)で、どうしてほしいの」
「(立場逆転してるよな確実に)どーせ明日も寂しくダラダラしてんなら、泊まりに来いよとか言いたいところなんだけど、その意思はありますか」

 奈瀬はちょっとだけ考えるそぶりを見せてから、答えた。

「そんなに人肌恋しいなら行ってあげてもいいわよ」


 でもそれは、和谷が絶対に「うっせぇ、オマエ何様だよ!」とか、そういう反抗をしてくると踏んだからであって。





「…恋しーよ」




 決してこんな反応をいただくためではなかったのだ。




(040407改訂)
おそまつさまでした。