結局朝方に申し訳程度の充電をして、慌てて和谷に電話をかけた。
出たら出たで何時だと思ってんだ、と文句を言われそうだが、でもこれで電話をかけるタイミングを失うよりはるかによかった。
和谷の番号にコールしてからしばらく、冷静になって時計を見た。
3時。うわぁ、とぼやきながらなかなか出ない電話に業を煮やす。
そして結局留守電に切り替わったから、電話を切った。
まぁ、いい。とりあえず電話をした事実はこれで和谷に残ったはずだ。
とりあえず寝よう、そう思って奈瀬は携帯を一階に置きっぱなしにしたまま自分の部屋へ上がり、すぐにベッドに潜り込んで眠った。
今日は早めに仕事があるから、と5時にセットしておいた携帯のアラームを止めるとすぐ、画面に不在着信の表示があるのを見つけて一喜した。
それは昨日ずっと待ち望んでいたもので。 しかし同時に、出られなかったことが悔やまれる。
3時、ということは多く見積もって向こうが眠りについて2時間ということで。
そんななか、起こされたらきっと奈瀬のことだから朝からキレるんだろうなぁ、と和谷は考え、とりあえず今コールバックするのはやめた。
仕事が終わってから、ちゃんと話そう。
いつになくいい目覚めが得られて、仕事に向かう和谷の気持ちは、昨夜とはうって変わって軽かった。
そういえばクリスマス、その単語が聞こえた気がした。
仕事がなくなった?やっぱり無理だから埋め合わせをする?
今日は土曜で学校は休み、優雅に昼過ぎに起きた奈瀬はまず携帯をチェックするが、まだ着信はなく。
(まさか気づいてないわけじゃないわよね…)
一瞬不安にもなったが、でもかまわず朝食兼昼食をとった。
まぁいつかコールバックされるだろう。
今日は一日家でゴロゴロすごす予定だし(だからもし仮に電池なくなったって平気だもんね!充電器も確保したし)(たぶん心配ないとは思うけど)、と奈瀬はテレビをつけてから、読みかけだったハードカバーの本を読み始めた。
しかし夜になっても電話が鳴ることはなく。
奈瀬はもうとっくに本を読み終えてしまったし、土曜のテレビはおもしろくないと消してしまっていた。無音。
今日は家族はみんな出ていて、奈瀬ひとり。
なんだかむなしくなって、無意味に携帯の着信履歴や過去もらったメールを眺めていた。
しばらくすると家族が続々と帰ってきて、母親が夕飯の支度をはじめるのを遠めに見ながら、電話を待った。
夕飯を食べた。
入浴。
眠たくなってきた。
バラエティー番組を見て大笑いする。
電話が気になる、でも着信はない。
結局電話はその日じゅう鳴ることはなく奈瀬はイライラしながらでもすぐに眠りについた。
(…、やべぇ!)
一通り今日のスケジュールをこなし終わった後、さらに研究会に誘われた和谷が、やっと携帯に手をしたとき時刻は深夜2時。
さすがにこの時間に電話というのも迷惑だろうと、結局コールバックはできず。
それからふたりは、何日も何日も電話をするきっかけをつかめないでいた。
そしてクリスマスは、もう目前に迫っていた。
一喜一憂ってあるんだから、てっきり一喜ってだけでも通じると思ったんだよ。
めずらしく会話がない。