「で、その後向こうから連絡こないんだけど、これってどういうことだと思う?」

 どういうことだと思う、と問い詰められた伊角は苦笑いを浮かべるしかなく。
 そんなことより、なんでわざわざこうして呼び出されているか考えるほうが重大だった。


「だって充電くらい終わるだろ?ていうかむしろ充電しながらでもできんじゃんか。なのに連絡ないんだけど。あれから、いっこうに」
「だから、奈瀬にもなんかあるかもしれないだろ」
「なんかって」
「じゅ、うでんきがないとか」
「…あるか、そんなこと」
「ないかなぁ…」

 それ以外にフォローの言葉は見つからず、ため息をつく和谷に(ため息つきたいのはこっちだ)と心の中で文句を言った。


「最近ちっとも会わなくなったし、電話もメールも…あってもなんかいまいち盛り上がらないしさ」
「なに、奈瀬のこと好きじゃなくなったのか?」
「え、今一瞬嬉しそうに見えた気がするのは気のせい、だよな?」
「おお俺は別に嬉しくなんか」
「フーン…まぁいいや。別に嫌いなわけじゃないしさ。好きじゃなかったらクリスマスどーのって話しようとも思わねーよ。
ただ向こうがこうなら、こっちばっかで盛り上がってても…なんつーの。むなしいっつーか、バカみてーじゃん」

 付き合っている彼女のことで悩む和谷を見るのは、とても新鮮だった。

 今までこのような相談がなかったわけではない。ただ今までは、決してこんな表情をしたりはしなかったし、
紛れもなく目の前にいるのは和谷なのだけれど、彼を小学生のころから知っている伊角としてはなかなか理解しがたい部分もあって。


 ああ、こんな顔して女の子のことで悩んだりするんだ。
 感動ではないけれど、和谷に対して想うにはこれははじめての感情だった。



「あ、の。聞いてますか?」
「あ、うん。聞いてる聞いてる。でも俺には奈瀬がそんなふうには思えないんだけど」
「そんなってどんな」
「だから、用件さえ聞き終わらない電話が切れたのは奈瀬の過失なわけだろ?そういうとこちゃんとしてると思うよ。向こうからかけてくるって」


 伊角は和谷がいつもどんなときも自分を頼ってくる理由がわかっていたから、いい加減なことは言わない。
 それをまた和谷もわかっているから、他の人の話はどんなに聞き流しても、伊角の話だけは聞き逃すまいと耳を凝らす。


 和谷が伊角を頼るのは、歳が近いせいもあって奈瀬と仲がよかったから、という理由もあったが、
一時期ふたりが付き合ってるとかどうだかという噂が流れたことがあって、ノリ、ではないけど少しだけそんな感じになった時期があったから。
 結局そのままどうなることもなく時は過ぎ、その後奈瀬は和谷と付き合いだして今にいたるわけで。


「だからショック受けるのは、もう一回電話してみて電源が入ってるの確認してからにしろ」
「なんで、」
「だから、電源入ってなかったら、まだ充電できてないんだろ」
「でも充電することすらめんどくさがったりしてたら…」
「…奈瀬かわいそうだな。そこまで信じられてないのか…」
「ちがッ、けど、なんか…」
「これから永遠に連絡取れなくなるわけじゃないんだから。どっちにしろ待ってればいいだろ。だからまずは電話、かけてみろって」
「んー…」



 その後伊角と別れひとりになってから、再び電話をかけた。
 あのいつもはイライラする事務的なアナウンスが聞こえたときは、安心しきって無意識にありがとうと言っていた。




伊角さんというのは、院生の中でも特に、ふたりにとって絶対に特別なポジションだったと思うんだ。
サギみたいに短くてごめん。