「クリスマスつまんなーい」
「あのさぁ、今年のクリスマスに期待持とうってほうが間違ってるのよ。諦めなさい」

 マックにきてまでテーブルに一問一答問題集を広げながらポテトをつまむ友人をうんざり見つめながら、思わずためいき。


「立場をわきまえなさい、立場を」
「(わかってるけど)」
「ああ、そっか。アンタもう推薦で決まっちゃったんだっけ?」
「…ごめんなさい」
「うわ、気づいたら腹立たしい!忘れてればよかった。だから呑気にクリスマスのことなんで考えられるんだ、ムカつくわー普通に」
「そういうわけじゃなくて…。そりゃあ人よりほんの少し余裕があるのは事実だけど、ヒマじゃないもん…ご、碁とかもあるし」
「ああ、まだ諦めてなかったんだ」
「(がぁーん…)」

 もう既に久しぶりのオレンジジュースは飲み干してしまった。氷が溶けた水をすすると、やめなさいと怒られた。


「第一、受験戦争とは遠くかけ離れたところで和谷クンがいるんじゃなくって?そういう愚痴はあたしじゃなく彼に言ってもらえるとイライラしなくて済むんだけど」

「仕事」
「は?」

「仕事、だってさ」


 友人が聞きなれない“仕事”という言葉に反応して、それまで一度だって向けなかった目をはじめて奈瀬に向けた。
 それからしばらくしてやっと、ああ、とまた参考書に視線を落とした。



「それもそれで大変なんだ」
「んー、なんかむしろ、ここまで会ってないと逆にイベントのために会うのもどうかなーとか…」
「ここまでって、どれくらい?」
「夏…すれ違ったかな」
「…は?」
「ああ、でもメールとかはたまに…。電話はもうしばらく」
「わ」

 わ、とだけ言って友人が頭を抱えたのは、果たして進まない問題集のためだろうか、それともその事実に呆れただろうか。
 どちらにせよ迷惑をかけていることに違いないので、奈瀬としては申し訳なく、なんとなく身を縮めた。

「でも嫌いじゃないんでしょ?」
「まぁ、」
「だったらこの時期乗り越えるために、なんとしてでも会いなさい。一瞬でもいいから!」
「んー、でも東京かどうかすらアヤしいしなぁ…」
「じゃあ、せめて、電話!」

 結局友人は問題集を閉じてしまった。ああ申し訳ないと思いつつも、長引きそうな話題を出してしまったことに後悔もした。
 今日は、早く帰らないとテレビに間に合わない。

「電話、っつって、何話せば…」
「(終わってる…)なんでもいいのよ。もしなんもなかったら最近あった出来事でもなんでもいいから話しなさい!それでちゃんと、次に会う約束を取り付けること。
いいわね?アンタは自覚してるとおり、他の人より少しはヒマなんだから」
「(ヒマなんて言ってないのに…)あー、うーん…」
「あー、腹立つ。相手いるだけでもムカつくのにそれに関する問題にきちんと解答してる自分にも腹が立つ」
「す、いませ…」

 結局その日は延々と説教が続き、最終的に「ホラ!アンタのせいで今日のノルマ半分も達成できなかったわよ!」という一言で締めくくられ、幕を閉じた。
 でもそんなことを言われても、奈瀬は会話の1割にも満たないくらいしかしゃべっていなかったのだが。





 家に帰って、まずベッドで寝転んで、そんなに電池の残ってない携帯をいじった。
 ちょっと…うーん、まだ和谷のほうがプロ入りして間もないころまでは。

 最新のメールとか着信とか気づくといつも和谷の名前で、たまにウザくなるほどのコールがあったり、でもそのころはまだ余裕があったし、今は余裕とかそういうんじゃなくて…、危機感も特に感じなければ、盛り上がる気配すら怪しいもので。

 そんなときだった。
 表示させていた電話番号からの着信があったのは。



「!」

 思わず慌てて携帯を落としそうになり、持ちなおしてもう一度まじまじと表示を見た。



『和谷 義高』



 なぜだかすぐに通話ボタンを押すことができなくてしばらく見つめていたが、延々長い友人の説教を思い出して、おそるおそる電話をとった。



「も、しもし?」
『モシモーシ。お久しぶりです』
「ん、あー、そうだね。元気?」
『おー、元気元気。ところでさぁー、オマエ24日…』



 ピー、ピー



『え、何?』
「あ、ごめ…、電池なくなりそう!」
『はぁー?オマエ今どこよ、急いで充電!』
「用件、用件は何!?」
『えーっと、お前クリスマスに…』




 ブチッ




 ツーツーツーツー




「うっわ…」

 思わず声を漏らししばし呆然(予兆はあってもやっぱり動揺はします)、でもすぐ立て直して充電器を探しに一回に降りた。





「おかーさぁーん! あたしの携帯の充電器知らない!?」
「ああ、アンタのね、今日お父さんが持っていったわよ。機種同じだから借りるって」
「!!(充電は家でしやがれバカ親父←一句)」



 残念なことにその父親の充電器は既に奈瀬自身が紛失済み、兄の携帯は機種が違うから無理だし、だから、これは…。




(明日まで連絡とれないよ)


 思わず盛大なため息をついたら、体中の力が抜けた。







なんでオイラの書くじょちこうせいはオバハンになるのか…なぞだ…。
ネタ提供、ありがとうございました!(匿名なんでどなたかわかりませんが…)