学園的5題。(お題配布元:PLUS 様)
1.アクシデント(冴木奈瀬)
2.消毒液のかおり(冴木奈瀬)
3.「もーっ、またサボってる!」(冴木奈瀬+芦原)
4.ランチタイムは屋上で(冴木奈瀬) new
5.きっとすべて必然だった
ショート×ショートで敢行予定〜
時期とかばらばらです
.
1.アクシデント
机に肘をついて目を閉じている。
何かの書類を書いている途中だったのか、片方の手はボールペンを握ったままだ。
うしろの窓からさしてくる光が髪を照らし、色素の薄い髪が白く光る。
奈瀬はふっと笑うと、備え付けのベッドの上に置かれていたうすっぺらいタオルケットを持ってきて、細身のわりにがっちりしている肩にかけた。
傍に来てはじめて気づいたが、静かに寝息を立てている。きっと疲れてるんだなぁ。
肩越しに、頬に唇を近づけてみた。
「―――わ!」
「ちぇ、起きたか…残念」
あともう少しで触れる、というときに気配を感じてか冴木は目を開けた。
大声に動じることもなく、奈瀬は同じ距離のまま離れようとしない。それどころか、背中からぴったりと抱きついてきた。
「もう少しだったのにな」
「…あのね奈瀬ちゃん」
「なによ、キスなんて幼稚園児でもしてるのよ?ほっぺにちゅうくらい別にいいじゃない」
「そういう問題じゃないでしょ、ほら、離れて」
「…せんせ、」
巻きついている腕に力が入ったのを感じた。
これは長期戦になりそうだな、と思い、とりあえず握ったままだったボールペンを置いた。
「ほら、お腹痛いんだろ?」
「冷たいベッドよりこっちのほうがラク」
本当は立っているのがしんどいくらいの腹痛だ。しかしこんなに「おいしい」状況、きっとそうそうない。キスは逃したがせめてしばらくの間このままでいさせてもらってもと、奈瀬は目を閉じ、冴木の背中に自分の体重を少しだけ預けた。
冴木は奈瀬がおとなしくなったのを感じ、横目でちらと確認すると、愛犬を可愛がるような頭のなで方をした。
「ちょっとだけ、」
「うん?」
「このままで…、ね?」
冴木はほんの少し首を回した。頭をなでる手を止め、困ったように笑った。
目を閉じたままの奈瀬の言う「ちょっとだけ」は一体どれくらいの間なのだろう?
少し冷たい手のひらを、奈瀬のまぶたの上にあてた。
それとほとんど同時くらいに、奈瀬は上唇の端に、何かがかすめたのを感じた。
「え」
「さー、ほら、良い子は寝る時間」
「え、え!? えー、え?」
一瞬のことだったが確かにかすめられたその感触はとても柔らかかった。
現に冴木が妙にニヤニヤしている。たぶん本人は、いつものポーカーフェイスを気取ったつもりでいるだろうが。
「あたし何の心構えもしてなかったし何も楽しめなかった!」
「知らないよ?別に俺何もしてないもん」
「あーん、うそよ! いやだ、冴木さんもっかい!もっかい!」
冴木は奈瀬の手が緩んだすきに立ち上がり、しつこくもう一度と言い続ける奈瀬の背中を押してベッドまで向かった。
ベッドを整えとりあえず奈瀬を座らせると、まるで笑顔のお手本のような笑い方をした。
「はーい、おやすみなさーい」
もちろんおやすみなさいなんて言われてカーテンを閉められても、奈瀬がおやすみできるはずもなく。
思い返すとどんどん早くなる心臓の音と付き合いながら、残り時間を火照る顔を覚ます作業に費やしたのだった。
(たぶん03年くらい)(061008up)
▲TOP
.
2.消毒液のかおり
「におう」
「へっ!?」
しかめっ面でそんなことをいきなり言われて、傷付かない男はいない。
キスをしようと顔を近づけたこのタイミングではなおさらだ。
加齢臭。一瞬ちくりと胸の痛む言葉がよぎる。
「せんせいのにおいがする」
「なにそれ」
「保健室の、消毒液」
なにより、ほっとしたというのが本音だったのだが、さすがに情けなくて口にはしなかった。
なんの未練もなさそうに、奈瀬はあっさりと顔を離してしまう。
少し惜しい気もしたけれど、また引き寄せるのもなんだか違う気がして、伸ばしていた手を引っ込めた。
「なんだか昔のトラウマ思い出しそう」
「へぇ、子供の頃、注射のたんびにお医者さん泣かせたタイプだ?」
「んー、それはよく覚えてないけど。やっぱり好きなものではなかったわよね」
「そりゃーねぇ」
「あとはやっぱり保健室かな。中学の」
診察台に腰掛け足をぷらぷら揺らせながら、奈瀬は視線を窓の外にうつす。
後ろめたいことをしているときは、決まって晴れの日が多い気がする。窓は閉めているけれど、グラウンドから体育の授業とおぼしき喧騒が聞こえてくる。
「保健の先生のいないすき見計らって、好きな男の子に連れ込まれていかがわしいことした」
「…」
「あら、いやらしい想像やめてよ。チューしかしてないもん。先生来ちゃったし」
さらっと言ってのける奈瀬に、最近の子供ったら…などと、実年齢よりいくらか老けたような感想を浮かべつつため息を漏らすと、いつのまにか視線を戻した奈瀬が笑っている。
最近の子供もいただけないが、よく晴れた日の授業中、保健室にふたりきりでこもっている先生と生徒は、きっともっといただけない。
「見つかって、まー怒られたわ」
「そりゃそうよ」
「でも、先生は共犯だから、その点怒られないもんね」
にっこり笑いかけてくる奈瀬に、そのときより遥かに危ない橋を渡っている、などと忠告するのは、野暮な気がして。
こちらも負けじと笑顔を作って、相変わらず足をぶらつかせる彼女の笑い声を、唇でそっと受け止めた。
(061118up)
▲TOP
.
3.「もーっ、またサボってる!」
「それで?冴木クンとはどこまで行ったわけ?」
「どこまでだなんてそんな、だってあのひと甲斐性ナシなんですもん。まだちゅーもしてくれなくって」
「エー!!信じらんないね!ぼくだったらこんなかわいい子に好き好き言われたら、間違いなく間違い起こしちゃう」
「ですよねですよね!しかも制服ですよ?ポイント高いと思いません?こんな短いスカートひらひらさせて足見せてるってのに、まったく意気地がないったらありゃしない」
「そうだよねー。しかも授業中の保健室だなんて滅多に人来ないし。都合よくいろんな場所から隔離してるし。ベッドもあるし。…ってあ、ぼくが来るのか。あはははははは」
「そうですよ。もし万が一あの人が間違いを起こそうとしたところでせんせーが来ちゃったら台無しなんで、そろそろお茶会は控えてくださいネ☆(ニッコリ)」
盛り上がっている。たいそう盛り上がっている。
やはり本人のいないところでのうわさ話はおおいに盛り上がるんだなぁと、目の前でその立証が行われているような、そんな気分。
冴木は思わず左手に持っていた書類を落としそうになりながら、気を抜けば上ずってしまいそうな声で切り出した。
「…な、んの話…ですか?」
「お、冴木クン!いないから勝手にお邪魔してたよ」
「あたしも薬もらいにきたら芦原センセがひとりでお茶すすってたからお酌してた」
冴木に気がつくと(てゆうか今まで気づかなかったんかい)(しばらく経ち尽くしていたんですけどー…)、芦原も奈瀬も一度は入り口を振り返りそう言ったが、しかし他のいっさいのリアクションもなく、相変わらずおはなしの続きに花を咲かせている。
テーブルの上には急須に茶碗、せんべいなどの茶菓子がばっちり揃えられており、昼下がりの茶会としては申し分なさそうだ。
「でもあれだよねえ。ぼくが高校生やってたときなんか、冴木くんみたいな若くていー男の先生なんかいなかったもんね。みんなゴツくて鬼瓦みたいな顔のおっさんばっか」
「いっちゃんみたいな若くてかわいい先生はいなかったんですか?」
「おおっと、やめてよそういう話題ー。ぼくそのテのリアクションうまくとれないんだからさぁ。それよりさぁ、冴木くん競争率高いし大変じゃん。勝算はあるの?」
「勝算も何も。顔と名前が一致してる生徒はあたしだけだもん。ねえ?」
唐突に話をふられても。
なにより否定できない話題で。
「冴木さん物覚え悪いから」
「し、つれいだな!あのねえ、奈瀬ちゃんは我が物顔で保健室入り浸ってんだからそりゃ覚えんだろってはなしで」
聞き捨てならない誹謗中傷に、傍観を決め込む覚悟だったがつい反論してしまった。
悪いが冴木光二、女の顔と名前を記憶するのは得意分野である。
「あはははは!じゃあとりあえずこの学校の女子生徒の中では敵ナシなんだ」
「て言っても、冴木さんジャリには興味ないみたいですし」
「えー、どうかなぁ、最近の子は発育いいから」
「…芦原せんせ、それセクハラー!」
「ええー、さっきまでもっとすごいはなししてたのになんだよー」
これ以上すごい話って、とは尋ねるのも恐ろしい。
それでなくとも、ふたりの会話はすでに生徒と教師の範疇はとうに超え、友人同士よりも親しげな様子を見せ付けてくれている。
「まーでも、プライベートなことまでは立ち入れないので、どのみちまだまだ障害はいっぱいあるんですけど」
「ねえ冴木くん、彼女いんの?」
「なんですかいきなり」
「いきなりじゃないよ、今の話の流れからして当然じゃん。ねえ?」
「ねえ?」
「で、どーなのさ」
一体いつの間にふたりの間にこれほどまでの連携が生まれたのかを疑問に思いつつ、きらきらと何かとてつもなく期待をこめたまなざしを向けられ、困惑する。
特に隠さなければならないこともないのだが…。
「…いない、ですけど」
「おお!…あれ?驚かないの?」
「だって前に聞きましたもん。そうだ聞いてくださいよ芦原せんせい!前ね、おなか痛くて寝付けないときに、おしゃべりに付き合ってってせがんだんですけど、そんときこのひと、」
「わー、わー、わー!余計なことは言わなくっていいんだよ奈瀬ちゃん(ニッコリ)」
「やだぁ、チュウもさせてくんないひとの頼みなんて聞きません!」
「(…エー、学校の先生って扱いこんななのー…?)」
冴木が少なからずショックを受けているとは露知らず、奈瀬は冴木にとって恥ずかしい記憶を簡単に開放するつもりのようだ。
「それでそれで?」
「『恋の話はナシね、俺ってば数え切れないくらい恋してるから』」
「…(絶句)」
「(ノーコメントかよ!)」
「とか素面で言えちゃうみたいなんですけどどーなんですかこれ!」
「うわぁ…、でもなんかイヤミなのにむしろ羨ましいとか思ってしまう自分が憎い」
「なに言ってるんですか、もうすぐ父親にもなろうってひとが…」
「あー、なんか奈瀬ちゃんと話してると学生時代に戻ったみたいな気になっちゃってさぁ」
「あはは、あたしもせんせいとは思えない」
「…それはどうかと思うけど」
「あ、そういや次授業なんだ。そろそろ行かないと。そんじゃ、なんか進展あったら教えてね」
「ハーイ、じゃあ今度冴木さんどうにか焚きつけてくださいねー」
「任せろ!それじゃあ〜」
手をヒラヒラさせながら去る芦原。にこにこと手を振る奈瀬。
終始ドアの前から動けないでいた冴木は、そこでようやく奈瀬の向かいの、芦原のぬくもりがまだ残る椅子に腰掛ける。
「…あのさぁ?」
「うん?」
「いろいろおかしいと思うんだよねえ」
「…そこが?」
「いやもうどこがとかじゃなくってさ。そもそも保健室は談話室じゃないしきみと芦原先生の会話は教師と生徒のそれじゃないし話してる内容が俺に甲斐性がないっておかしくない?」
「だって、」
反論しかけて奈瀬はやめた。やめて、かわりにおとなしく薬を置いてある棚に向かって、箱に書いてある指示の通りの数だけ、錠剤を取り出すと、そのまま口に放り込み、用意しておいた白湯で飲み込んだ。
「…だって?」
その一連の行動が終わるのを待ってから冴木は声をかけたが、奈瀬はニコリと笑うだけで、それに対する答えはもらえなかった。
「あした、芦原せんせいのいないとき見計らって、来ます」
そいじゃ、と芦原と同じように手をひらひらさせながら、奈瀬も保健室を後にした。
(…あ、薬もらいに来て腹痛は平気なのかな?)
(040124)
▲TOP
4.ランチタイムは屋上で
「あ、見ーっけ」
駆け上がってくる足音には気付いていた。おそらく、その主が誰であるかも、心のうちではわかっていたのだろうと思う。むしろそうであれと、若干の期待をこめて。
だからこそ、冴木はすでにそちらに振り向いていた。
「奈瀬ちゃん」
名前を呼ぶと、飼い犬のように素直に駆け寄ってくる。
こんなところを芦原以外の教員に見られたらすぐにでも呼び出しを食らうであろう。そんなことをぼんやり考え、屋上の危険防止の柵にもたれながら、自分の横に並んでくる奈瀬を見届ける。
「芦原センセイに聞いたの。冴木せんせーが逃げたって」
「へえ?」
人聞きが悪いねーなどと呑気に言いながら、なにやら楽しげな奈瀬につられて思わず冴木も頬が緩む。
楽しそうだね、と問えば、やっぱり満面の笑みが返ってきた。
「今日購買でメロンパン買えたから、うっかりテンション上がっちゃって自慢したくなっちゃって」
「あらあら、俺ってばメロンパンの喜びを共有するための存在なわけ?俺にはもうテンション上がらなくなっちゃったわけね」
「嬉しいことは好きな人と共有するでしょ?」
「…ああまたそういうふうにだまされちゃうわけね、俺」
「まんざらでもないくせに」
いたずらっぽく笑うと、奈瀬は柵を背にして座り込んだ。
「一緒にランチだって。悪くないね」
「ランチ?購買の売れ残りのパンを牛乳で流し込むのが?」
「あら、俺は好きよ。コッペパン。なんだか昔を思い出すようで」
「そんなトシでもないくせに」
奈瀬がメロンパンの袋を開けると、ほんのりと甘いニオイが漂ってきた。
自分で好んで買うこともない品だけに、なんとなく懐かしささえ憶える。
「じゃあせんせ、ハイ」
「はい?」
「半分あげる。嬉しいことは共有」
「あら」
手を伸ばして差し出してくるメロンパンを受け取り、じいと見つめる。
ああまたそういうふうにだまされちゃうわけね、俺。もう慣れたけどね。
なんだかんだで共有どころか2倍に膨らんだ喜びをかみ締めつつ、足元に座る奈瀬を見下ろす。
「いやーん、カップルみたい」
「カップルみたい、ねぇ」
思わず苦笑すると、奈瀬にならってその場に座り込んだ。
確かにランチと言うほどおしゃれな響きではないけれど。カップルと言うか同じ学生同士のようで、確かに楽しいような気がする。
実際、学生同士であれば、こそこそ隠れる必要もなく随分と楽なのだろうけれども。
それでもそのスリルが楽しいねぇなどと呑気に言い合っているふたりではあるので、どちらがいいか悪いかはよくわからない。
満足そうにメロンパンを頬張る奈瀬を見ながら、もはや体面上の倫理観以外はすっかり失った冴木がにやりと笑う。
「メロンパンもいいけどそのいちごみるくのが捨てがたいよ」
「え?」
「ちょっとちょーだい」
奈瀬が甘噛みしていたストローを解放し、それでも素直に手渡そうとしたときだった。
しかし一瞬の隙をついて奪われたのは、紙パックのいちごみるくではなかった。
「…それは、いちごみるく味、では」
「ウフフフ」
「なんだか最近、むしろせんせーのリミッターのほうが壊れてきたような…」
「俺ももうヤキがまわったかな〜あ」
「なによそれ」
「もしクビにされたら奈瀬ちゃん、責任とってボクのことおよめさんにしてね」
まったくばかばかしい提案に、しかし奈瀬は親切にニッコリと笑顔を作って返した。
「もっかいちゅーしてくれたら、おむこさんなら考えてあげる」
(070816up)
あんま購買とか利用しなかったんで人気商品がわからんとです。
▲TOP