ああ、避けようかなと思ったときには目が合っていた。

 なんなんだここ最近は。同窓会だって、あっても決して行かないタイプだと言うのに。
 よりによって会いたくない相手にばかり…。


「三谷?」

 そんなこちらの気持ちは(まったくとは言わないにしても)知らないであろう進藤に、つるんでいたころと同じように名前を呼ばれた。
 どうしたものか。あかりと会ったときとはまた別の気まずさだった。

「…おう」

 そう言うのが精一杯だった。



 
 囲碁部でのこと、あかりのこと。
 だがそれらはこちらが一方的にむくれているだけだと言うことに気づいた。だからこそ、相手にされていない気恥ずかしさもあわせて、バツが悪いのだ。向こうからも同等の憎しみだとか、怒りみたいなものが返ってくればまた違うだろうに。

 別に話す理由もなかったが、去るのは逃げ出すようでそれもシャクだった。
 適当に付き合って切り上げようと、とりあえず向き直る。


「そういやこないだあかりと会ったって?」
「…だからなんだよ」
「いや、別になんてことはないけどさ…。ちょうどそのあと俺と会ったみたいなこと言ってたからさ」

 自分の名を呼ぶのと同じように、あのころと同じようにあかりの名を普通に口にされたことになぜか違和感をおぼえた。
 そう言えば進藤に彼女ができた、と言うようなうわさを聞いた気がする。興味ないふりをしていたおかげで詳しくは知らなかったが。…ひょっとするとそのせいなのかもしれない。


「お前ら仲良かったよなぁ。俺てっきり付き合ってるのかと思ってたけど」
「…関係ねえだろ」

 なんだよ、と少しむすっとした進藤が気になった。
 しかしこちらこそ、その話題は具合が悪い。

「お前は藤崎のことは別にどうとも思ってなかったんだろ」
「…なんだよ、それ」

 自然と口調が荒くなった。傍目にもわかるくらいにいらいらした感情が外にあらわれはじめた。

「だったら関係ねえだろって言ってんだよ」

 おさえた声がかえって威圧的で、思わず進藤はたじろぐ。
 何もそこまでつっかかってくることはないだろうに。あまりおもしろくない。
 
「…そりゃあ、そうだけどさ」

 なんだよ、とでも言いたげなその様子が、さらに三谷の癇に障った。
 顔を見るのも嫌ならすぐに背を向けてしまえばいい。元々付き合わなければならない理由もないのだ。
 
 しかし、一度留め金の外れた三谷の口は閉じなかった。当時の想いが、堰を切ったようにこぼれてくるようだ。それは止めどなく。


「あのさぁ」

 少し長い前髪を掻き上げながら。
 
「俺、好きなんだよ、藤崎が」



「へ、え」

 たっぷりと間を開けたあと、ようやく進藤の発した言葉はそれだけだった。


 三谷が、あかりを、好き?
 …そんなの中学のときから気づいてたよ。

 でも別にどうと思うこともなかった。…はずだし。



 はずなのに、だとしたら今のこのもやもやとした気持ち悪さはなんなのだろう。


(なんで言うんだよ、わざわざ…)

 急に早くなった自分の心臓の音が気になった。まるで緊張しているときのように。緊張?なぜ、何に。


「お前はお前でそれなりにやってるだろうけど、俺にはまだ片付いてねえ問題なんだよ。…あいつを本当になんとも思ってないんだったら、どうでもいいんだったら、口を挟むのは止めてくれ」

 言い終えると、別れの言葉もなく三谷は背を向けて行ってしまった。

 最後にもう一度きつく睨み付けられたように見えたのはそうだった気がしただけだと思ったのだが、もしかすると本当にそうだったかもしれない。




(20050509)
一体何ヶ月ぶりの…。
もはやこの量書くだけで精一杯です。