「…あーら、今日奈瀬ちゃんいないの」


 来るなりそう言った冴木に、言葉以上の意味を察したのは伊角だけのようだった。
 結局そのつぶやきの理由は、本人曰く「この前奈瀬ちゃんが大絶賛してたお菓子買ってきたのに」らしいが。

 しかしそれだけにしては…、と思わずにいられないのは。


「奈瀬ちゃん今日はどうしたの?」

 ほら、来た。
 さりげなさを強調したその言い方は、伊角は今までに何度か経験済みだった。

「オトモダチと遊ぶとか言ってましたけど」
「へぇ」

 あくまでさりげなく・さりげなくで通そうとする冴木がなんだか悔しくて、悪知恵を働らかせて少し意地悪なコメントも添えてみる。

「どういうオトモダチかは知りませんけどね」
「…なぁに?それはどういう意味で?」

 冴木は堪えた様子は見せず、代わりににいと唇の端を上げた。ああ、強気だ。そこまでも強気だ。結局自分の力量ではどうこうできる人ではないのだなぁと思ってしまう。
 まいったなぁ、と言う顔をしながら、さぁ、とだけ答えた。まぁそれでも、実際奈瀬の遊び相手が誰なのかは知るところではなかったが。

 冴木はつまらなそうに、その「奈瀬が大絶賛していた」お菓子の箱をべりべりと開けると、箱を手に持ったまま食べ始めた。あれ?このひと、甘いもの嫌いじゃなかったか?

「な、んだよー!冴木さん、それ俺のために買い出してくれたんじゃねーの!?」

 和谷がそう言って冴木が開けたばかりのお菓子の箱めがけてやってくる。
 最初こそ冴木も箱を上下左右に動かして、和谷を振り回して遊んでいたが、さすがに飽きたらしく、和谷越しに折りたたみ式の小さなテーブルの上にそれを置いてしまうと、おもむろに立ち上がる。

 ああ落ち着かない人だと思いながらどこ行くんですかと聞けば、

「ちょっと、電話」
 
 振り向きもせず、携帯電話を掲げて今入ってきたばかりのドアを出る。それと同時くらいにもしもし、と言う声が聞こえた。
 開けっ放しのドアから冴木の背中が見える。アパートの通路の手すりに両腕を置いて、右手に携帯電話。

 もちろんその電話の相手は、伊角の察するところの相手だと思うのだけれど。



(20040614up)
てゆか、和谷くんおまえいくつだよ…_| ̄|○
おかしっておかしっておかしっておかしいって。

しかし最初書いたのいつだコレ。
ささやかなエールを…とリンクしてると思えばいいじゃないですかぁ(責任放棄)