自動ドアが開いた先の傘立てには、まだ自分のさしてきたビニール傘があった。



 舌打ち。


 賭けをしていた。普段は使わない傘立てにビニール傘を残して、コンビニで時間をつぶす。
 目に付いた雑誌を適当に立ち読みして、飽きた頃出る。そのときこの傘が無ければ、それも含めて全てあいつのせいだ。
 どこにでも売っている量産品なのだから、もしかしたら違うのかもしれない。だが間違いなくそれは自分の傘だったのだ。

 ばかばかしい。
 矛先を決め付けたところでどうにもならないなんて、自分でもわかっている。
 だからこそこの傘はやはり自分のものなのだ。

 まだしとしとと雨の振る空の下、再びビニール傘す。
 予定があって出かけたはずの休日。予定が無くなって30分粘ったコンビニ。
 
 雨で靴も濡れてしまった。不快。


 久しぶりにかちあった互いの休日。
 近頃は仕事終わりに互いの家に転がり込んでひとしきりしゃべって眠ってなんて過ごし方しかしていなかったから、久しぶりにどこか出かけようかなんて話をしていた。
 そういえばもうすぐ付き合って何年ねーなんて、いわゆる女っぽいせりふを吐きながら、何の催促だろうと警戒。
 だけどもめんどくせーなんて言いながら、結局あれこれ予定を立てていた自分。

 雨だし。結局出かけるのが億劫になって、家でゴロゴロするのがオチだったろうな。
 ちょっと高い缶詰のパスタソース買って、普段飲まないワイン開けたりして。

 そうやって気持ちをなだめて、ため息ですべて吐き出して、歩き出そうとしたところで。
 傘もささず走ってくるスーツの女。明らかに異様だった。

 普段は手入れに余念の無い髪もくしゃくしゃ、朝時間をかけて仕上げただろうナチュラルメイクも、寒さのためかチーク以上に紅く染まる頬。
 泣きそうな顔で、早く仕事上がれたからとかいいわけじみた言葉。

「ばかな女」

 そう言いながら紅い頬に指をあてると、それは予想以上の冷たさだった。
(2009/02/28)