※下ねた…というか、冴木さんの言動がひどいおっさんです。彼に夢を見ている方はお引き返しください…。





「ギャーハハハ、明日美の顔キモイ!マスカラ落ちてる」
「るっさー、あーんもー、みっちゃん泣くからつられたんじゃんバカー」
「え、あたしのせいなの!?」
「だよもー、あたし式のとき泣かなかったのにさ」
「ていうか明日美さー、アンタ寝てたでしょ途中。そしてあくびおおすぎだっつうの」
「ギャー、バレてたの!?だって話つまんないんだも(ゴニョゴニョ)
「奈瀬ちゃーん、僕と写真撮ってー!」
「イ・ヤ! こんどークーン、ツーで撮ろうツーで!」
「断る!(キッパリ)」
「うっわ…」


 …と言う、卒業式後の模様でした。
 はー、なんともアッサリ。いや、涙は出たんだけど。でもたぶんそれはもらい泣き(ええいああー)。
 だけど、なんていうか、やっぱり別れのイメージが湧かないと言うか。あああたしきっと明日もこの教室来てあの席座ってみよことあっちゃんとバカな話してこんどーくんにうっとりして清水にセクハラされるんだわって気分になる。
 高校は楽しいこともイヤーなこともたくさんあったから、きっとこの先ずっと思い出として残っていく通過点だと思う。
 制服はカワイイし(悪いけどかなり似合ってるとも思う)、先生は愉快だし、バカだけど明るい学友(プッ…、学友!)たちもたくさんいる。
 進学と囲碁で悩んだこともあれば仲の良かった(と少なくともあたしは思っていた)男友達から告られたこともあったり、言いたいことなかなか言い出せないで悶々としてるときもあった。 


 …と言って、「高校は好きですか?」その問いにYES!と明るく即答できるかどうかはわからない。


 どっかで、そう、所詮通過点よとあっさりわりきっているフシがある。
 さみしいと思ったのは、友達と別れてしまうことだけ。
 決してこの学校を去ることではないのだ。
 あたしはやっぱりいつかは碁で食べていきたいと思っているしそれは今も変わらないし、だから短大だなんてまるで妥協のような進路をとって碁も自分なりに頑張るつもりでいる。
 だから本当は高校なんて、プロ試験に落ちたから通っているわけであってもしかしたらここに存在していることはなかったかもしれないと思うとやっぱり無駄足?とも思ってしまう。
 そんな悲観的なことを考える中で誰かが言った言葉で、「無駄なことはない」。
 それ聞いてはじめて自分から泣いた気がする。






「んじゃね明日美ー、次17日!」
「ん、連絡待ってる」


 そ、連絡なんて携帯電話という文明の利器のおかげでカンタンにとれる。
 確かにこの高校の3年×組何番奈瀬明日美ではなくなるけど、同窓会だってきっと誰かが言い出してくれるだろうし、寂しいことなんてないはず。…はずだ。
 まるで明日もまたここに来るかのように、いつもとおんなじ別れ方をして、教室を後にした。





 …だけど、なんだろう。
 制服、脱ぎたくない。そう思って、わざわざ家に帰りかけた足をまた駅に向け、頭に3人の顔を浮かべた。


 今日だったらたぶん勉強会でもしているのではないだろうか。
 邪魔になるからといつもなら遠慮しているところだが、今日ばっかりはわがままを言わせてもらおう。
 …このままひとりでいるとセンチになりすぎて泣いてしまいそうだから。





















「…あら」
「グッイブニン、マイダーリン」(棒読み)
 ぎゅう、としがみついてみる。いつもならあっさり引き剥がされるのがオチなのだが、珍しく抱き返される。
「んー、なーにぃ? 抱かれたいんなら今日は激しいよ? 制服プレイ大歓迎」
「うわ、キャー、この人目がエロ!」
「お、奈瀬じゃん。今冴木さんに近づくとマジで危険だぞー。俺と伊角さんにのされて機嫌悪くなってるからな」
「え、伊角くんもいんの? 3人?」
「いや、俺ちょっと複数は…」
「やーん、ちょうどいいじゃない! 冴木さん、しっしっ」
 冴木の腕をすり抜けて、和谷と伊角のいるいわゆる居間?のような部屋に行くと、どうやらふたりは向かい合って対局中のようだった。
「あれ、学校帰り?」
 伊角が出しかけた手を戻して奈瀬を見やる。通学スタイルには不必要な花束。
「…奈瀬、もしかして今日卒業?」
「そーなのー。祝ってもらいにきた!」
「そういう図々しい態度はジョシダイセイになっても変わらないのかしらねぇ」
「和谷クン? そんなに星を見たい?」
 殴るフリをして出した右手を玄関から戻ってきた冴木に引っ込められた。
 いい子いい子と宥められて気をつけの姿勢をとらされる。


「しっかし早いねー、もう卒業かぁ…」
「明日美ちゃんの制服姿も今日が見納め! 写真ならドーゾ、今日なら一枚ひゃくえんでオッケ」
「おさわりはOKですか?」
「冴木さんおっさん…」
「ワンタッチ諭吉! あたしはそんな安い女じゃございませーん」
「ユキチかよ…」
「本気!?」
「ていうか、えー…、もう制服着ないの?」
「明日以降着たらコスプレになります」
「コスプレ! …いーねぇ、どう?俺専属のコールガール」
「冴木さん、顔やらしいよ…」
「時給最低5万! …冴木さんウマいからなぁ、ヘタすりゃ一時間で何連続…」
「下ネタ禁止! 和谷がいるんですよ!」
「…そんなとこ子ども扱いされても。むしろ俺伊角さんに言われたくねー」
「…」


 くるうり、その場でゆっくり一回転すると、短いスカートからチラチラ見える学校短パンが-32点。
「それ脱いで、も一周まわってくんない?」













 ワイワイガヤガヤ、多少アルコールも入りつつ、アルバムを眺めたりして楽しく談笑。
 
 本気で奈瀬の足におさわりを決行しようとする冴木を寸前で止め、いい気分になって和谷に絡もうとする奈瀬を制して、伊角は自分がいて良かったと思った。
 もし自分がいなかったらどうなっていただろうか。乱交パーティー…、いや、想像もしたくない。
 今はすっかり三人ともぐったりと眠っていて、伊角もやっと落ち着けた。

 

「…伊角くん」
「ああ、奈瀬、起きたんだ」
 起き上がった奈瀬が、伊角の隣まで擦り寄ってくる。
 一瞬心臓が跳ね上がるような気持ちがしたが、しかし酔いのせいだと思うと落ち着けた。
「伊角くんは、歳の一番近い年上の人だから」
「うん?」
「さみしかった? 卒業」
「…うーん、そうだね」
「あたしねぇ、高校なんてなんて適当な通り道なんだって思ってたの」
「うん?」
「だけど結構サミシイもんね」
「友達と別れるのとか?」
「…うん、なんかね、よくわかんないんだけど、信じられないってゆーか…」
「うん、」
「んー…、どう言ったらいいんだろ、わかんないや」
「奈瀬は短大行くんだっけ?」
「一応ね。でもそれもおんなじ。なんて打算的な選択なんでしょって」
「でもきっとそれも、卒業したら同じこと思うだろうね」
「…そうだね」
「通ってるときやっと気付くよ。何が悲しくて寂しいのか」
「…そっかぁ」
「そうだろ、きっと」
 なんでー。
 大学にも行ってやしないのに。わかるのは、なんで。
 そして妙におとなしく納得させるような口調。ッハー。
「あたしそろそろ帰る」
「送るよ」
「ん、いいの。余韻に浸りたいし、もしかしたらお迎え来るかも」
「親? あれ、いつ連絡入れてた?」
「ううん、違うけどだいじょぶ。身の危険は感じるけど命は平気だから」
「…やっぱ送ろうか」
「だ、か、ら! 平気よ」
 重たい卒業アルバムと元気のなくなった花束を握り締めて、足首を握ろうとする冴木の手を蹴飛ばして玄関に向かい、靴を履くとまるでドレスを纏ったどこぞの姫のようにスカートの両端を摘んだ。
「制服、けっこう好きなんだけどね」
「うん、似合ってると思う」
「やっぱり?」
 にっこり笑顔を作って、その部屋を後にした。



「…伊角さん」
「ああ、和谷、起きた?」
「いつの間に奈瀬とデキてたの」
「別にそんなんじゃ…」
「奈瀬ちゃん他にもう一人俺らみたいなのいるんだよ」
「え、何それ冴木さん。ていうか起きてたんだ」
「俺らみたいのって何なんですか…」
「思わせぶりな態度しといて大事なことは言わないの」
「…」
「…冴木さんは奈瀬はどうなの」
「お前らは」
「…、別に俺は」
「いや、院生仲間…ですよ」
「ほんとかよ」
「…」
「俺はふたりきりのときあんまり抱かれたい抱かれたい言うからたまに抱いちゃおうかと思ったことあったよ」
「うわ、爆弾発言」
「でもあの子も正直なところ誰をどう思ってるのかわかんないからやめたけど」
「…オトナだなー冴木さん」
「でも悪いけど俺キミらよりは進んでいる自信が」
「…あのー、」
「なに、伊角くん」
「俺昔奈瀬に言われた。好き…って」
『!!!』











「遅ェー」
「やっぱいたよー、約束してないのに。お、制服、高校生らしいね」
 しかし不似合いな、緑ブレザーとスーパーカブ。
 赤毛は暗くなった街中でも、かすかな街灯の光でやはり赤く光っていた。
「あーああ、これで明日美ちゃんの挑発スカートも見納めかー」
「何よ名残惜しいの?」
「制服プレイやっときゃよかった」
「あはは、それ冴木さんにも言われた」
 今日はバイクはひいていこうと、加賀にはまったく不似合いな花束を手渡された。
「お、いいねぇ、両手に花」
「あんたね、明日美ちゃんというかわいい花がありながら」
「黙ってりゃいいんだけど」
「うっわ、こんどーくんはおしゃべりしてるあたしは見てて飽きないから好きって言ってくれたもん」
「…さっきから男の話ばっかな」
「あら、仕方ないわよ。あたしもてるもん」
 何言ってんだか、そう言いかけて加賀は止めた。


 すべてを鵜呑みにしているわけではない。
 …が、すべてが嘘のようにも聞こえないのだからまたこわい。


 実際関係はまだないわけだし。たまに会ってはくだらないことを話すばかりで。
 今日もまた取り留めのないことを話していたら、いつのまにか駅に着いていた。





「ねぇ」

 じゃあねと手を振って、改札をくぐろうかというときだった。

「うーん?」
「結局のところ今は誰と付き合ってんの?」
「はぁ?現在フリーですけど」
「俺とはどうなの」
「…さー、考えとく」


 バイバイ、考えてるんだかどうなんだかまったくわからない笑みを浮かべながら、手を振った奈瀬の背中は、あっという間に人ごみに消えていった。




これいいのかな…すんげぇ下ネタばっかですけど。ほんと嫌いな人ごめんなさい。しかし下ネタ会話は書いてて楽しいね…(おれが親父)。
さて誰を選ぶんだろうみたいなお話にしたかったんだけど、これじゃああたしの嫌いな逆ハーとかいうやつじゃないか…!
ちなみに冴木さんはそれほど本気じゃない。伊角さんは奈瀬をフってる(けどちょっと心残り)。和谷はなんかちょっといいかなぁって思ってる。加賀は完全に落ちてる。
…っていう設定なんだけど、和谷と伊角きゅんフォローできなかったよ。